小鳥のオウム病の検査方法等ガイドライン(暫定版) |
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今次、島根県内の動植物展示施設におけるオウム病集団感染事例の発生を受けて、迅速にトリのオウム病クラミジア(C.psittaci)の試験室内検査を実施するために必要な、検体採取方法及び検査方法を検討し、併せて検査の結果陽性となったトリの治療方法について検討を行った。 |
本ガイドラインはあくまでも暫定的なものであり、今後さらに知見を得て、改訂を行うものである。 |
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I トリの試験室検査と治療のフローチャート |
(検査と治療のフローチャート) |
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(ガイドラインの記載箇所) |
トリの糞便採取 |
II-1-(1) |
↓ |
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糞便検体調整 |
II-1-(2) |
↓ |
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市販抗原検出キットによるスクリーニング検査 |
II-1-(3) |
↓ |
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PCR法による確定検査(必要に応じて) |
II-1-(4) |
↓ |
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検査結果の判定 |
III-3 |
↓ |
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陽性となったトリの治療 |
III-2 |
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II 試験室内検査の詳細 |
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1 検査方法 |
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(1) 糞便採取 |
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個別に飼育されている場合は個々の検査が可能であるが、群れとして飼育され個体識別が困難な場合は、全体に応じて一定数の糞便採取が望ましい。使い捨てのプラスチックスプーンなどで採取し、スクリューキャップ付きの容器に移して4℃で保存し輸送する。マスク、手袋を着用するなどして感染に注意する。 |
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(2) 検体の調整 |
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自ら検査を行なう場合あるいは検査機関に依頼する場合のいずれも、まずトリ糞便検体の調整が必要となる。糞便検体に滅菌蒸留水を加え、10−20%乳剤を作成する。この際に、ホモジナイザー(滅菌済み)を用いるとよい。乳剤を遠心管にとり、低速遠心し(1000−1500rpm、5分程度)、上清を回収する。この回収した上清を抗原検出法やDNA抽出材料として、それぞれのキットに適した方法で使用する。操作については実験室内感染に注意する。 |
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(3) 市販抗原検出キット |
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それぞれの市販キットの取り扱い法に準じて測定する。キットでは通常綿棒を用いるが、上記の調整検体を少量(100μl)採取し用いる。 |
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(4) PCR法 |
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DNA抽出はいくつかの抽出キットが市販されている。PCRおよび制限酵素切断による確認は、報告されている方法に準じて行う。 |
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2 検査の進め方 |
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多数の検体を扱う場合、市販抗原検出キットでスクリーニングを行い、陽性であったものに対しPCR法で確認を行なう方法が望ましい。 |
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3 検査結果の判定 |
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(抗原、あるいはPCR陽性の場合) |
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一見健常なトリでもC.psittaciの保菌率は2−3割と高率であるとされる。トリが病気になったり、体調を崩した際に大量に糞便中にクラミジアを排菌することは知られているが、健常時でも不規則に排菌するとされる。したがって陽性であった場合には治療の対象と判断する。 |
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(参考 : 上記検査方法の選定に際して行った考察) |
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1 対象検体の選定について |
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(1) |
通常、トリにおけるC.psittaciの感染の有無の確認は、トリを解剖しその臓器から、分離培養、抗原検出法、遺伝子検出法などの種々の検出法によって行なわれる。生きた状態での検査は排泄物(以下糞便)や分泌物、また総排泄腔のスワブからC.psittaciを検出する方法がある。 |
(2) |
本ガイドラインではトリが生存した状態で、また複数のトリの検査を迅速に行うことを想定し、検体として得ることが比較的容易な糞便を用いた検査方法を提示した。 |
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2 糞便からのC.psittaci検出方法の選定について |
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糞便からの検出を検討した報告は限られ、標準的な検査方法は確立されていないが、現時点で実施可能な方法を検討した。 |
(1) 分離培養 |
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感染性の有無を確定できる方法であるが、実施に特別な施設や経験を要すること、またバイオハザードの観点からも習熟した施設以外で行なうことは困難である。 |
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(2) 抗原検出法 |
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1. 直接蛍光抗体法(DFA)による染色 |
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クラミジア属特異性のモノクローナル抗体が市販されている。しかし蛍光顕微鏡による判定に経験を要し、特に糞便はスワブ検体に比べて共雑物が多く判定が困難であること、判定に時間を要することなどから、今回のような複数検体の迅速な検査にはあまり適さない。ただし排泄腔などのスワブでは、有用性は高いと思われる。 |
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2. 市販のクラミジア抗原検出キットの応用 |
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一般細菌との交差反応などに留意する必要があるが、ELISA及びEIA市販キットを応用した成績の報告から、スクリーニング用に使用することが可能と考えられる。簡便性、コスト、迅速性などを考慮すれば、有用性は高いと思われる。 |
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(3) 遺伝子検出法(PCR法) |
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感度や特異性に優れるが、複数検体の迅速な検査としてスクリーニングに用いる場合にはあまり適さない。また糞便では、インヒビターによる偽陰性の可能性も高くなる。方法としてはDNA抽出を行い、C.psittaciに特異的なプライマーを用いてPCRを行なう。 |
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III 治療について |
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1 治療のタイミング |
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検査の結果が得られるまでには相当の期間を要することや、群れでは治療対象を区別することは困難である。これら種々の状況を考慮し、検体を採取した後、一斉に治療するという方法の選択が可能である。 |
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2 治療の実際 |
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鳥種によって主食となる餌が異なるので、それぞれの鳥に合った投与法を考慮する必要がある。リキッドタイプ、ペレットなどを主食とするトリでは餌(ソフトフード)に薬剤混入を行なう。シード餌(種実類)を主食とするトリでは、シードと薬剤を混和(まぶす)するが、薬剤がつきにくいため、飲水添加がよい場合もある。 |
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3 薬剤の投与法 |
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(1) クロルテトラサイクリン(CTC) 投与期間は30-45日間 |
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1. 餌に混ぜる場合 |
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・小型-大型のオウム目のトリ |
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1000-2000ppm(1〜2%)の濃度でソフトフードに混入し与える。 |
・ヒインコ科のトリ(ゴシキセイガイなどのnectar feeders) |
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ネクターフード(液状のエサ)1000mlに対しCTC500mgの割合で混ぜて与える。 |
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・猛禽類 |
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1日に体重あたり250r/kgの薬用量となるように、適宜ネズミなどにCTCを入れて与える。 |
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2. 飲水に混ぜる場合 |
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・ほぼすべてのトリ |
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CTC濃度500mg/1000mlの薬液となるように調整して飲水として与える。薬液以外に水分は与えない。特に果物、野菜など水分の多い食物を多給すると、薬液を飲まない個体が多い。薬液は8〜12時間ごとに調整しなおし、交換する。 |
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(2) ドキシサイクリン(DOXY) 投与期間は45-60日間 |
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1. 餌に混ぜる場合 |
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・大型のオウム目 |
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餌(ソフトフード)に対してDOXY 1g/kg(0.1%)、又はシード餌(種実類)に対して10g/kg(1%)となるように調整したものを与える。 |
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・小型インコ、カナリア |
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餌(ソフトフード)に対してDOXY1g/kg(0.1%)となるように調整したものを与える。 |
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・猛禽類 |
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1日に2回、体重あたり25mg/kgのDOXYをネズミなどに入れて与える。 |
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2. 飲水に混ぜる場合 |
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・ほぼ全ての鳥 |
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DOXY濃度100mg/100〜120ml(0.083〜0.1%)の薬液となるように調整して飲水として与える。 |
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(3) |
食欲のないトリや薬剤入りの餌を拒否するトリに対して、筋肉内注射(DOXYでは5-6日毎に60-100r/sの濃度)を行い、食欲が出た後、食餌療法に変える。小型鳥(一般には100g以下の鳥)では注射によりショック死をする可能性がある。 |
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IV 治療効果の確認 |
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治療によるトリの完全な除菌は困難なこともあるが、糞便への菌排出の陰性化を治療効果の指標とする。個体識別可能なトリでは、治療による健康状態回復の観察のみでなく、糞便からのC.psittaci検出が陰性化することを確認することが望ましい。群れでも治療前と同様の検討をして比較することが望ましいが、治療効果確認は困難なこともある。 |
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参考1 : 検査試薬等に関する情報 |
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抗原検出法関係 |
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直接蛍光抗体法(DFA) |
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クラミジアFA試薬「生研」(デンカ生研) |
市販のクラミジア抗原検出キット |
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IDEIA PCEクラミジア(協和メデックス) |
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クリアビュー(関東化学) |
遺伝子検出法(PCR法) |
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DNA抽出 |
PUREGENE(GENTRA社) |
セパジーン(三光純薬) |
糞便用QIAamp DNA Stool Mini Kit(キアゲン社) |
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参考2 : 本ガイドラインに関する問い合わせ先 |
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国立感染症研究所 ウイルス第一部リケッチア・クラミジア室 |
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岸本寿男室長、志賀定祠主任研究官、小川基彦研究官 |
TEL 03-5285-1111(内線2534) |
FAX 03-5285-1208 |
(平成14年1月25日現在) |
(PDF:4ページ) |
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関連情報 |
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