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第3回 人と動物の共通感染症研究会学術集会
 
教育講演 侵入動物が媒介するズーノシスのリスク分析
 
 鈴木莊介 厚生労働省東京検疫所
 
【はじめに】
  近年における国際化の流れは、ヒトの移動及び貨物の国際物流の増加と広域化をもたらし、地球規模でのボーダレス化を進めている。また、地球温暖化、人為的な環境変化等の諸条件が重なって一部地域で発生していた感染症が、世界各地でまん延し、その多くに蚊、ネズミを介してのズーノシスが含まれている。そこで、侵入動物対策を実施している検疫所の立場からズーノシス(蚊由来の黄熱、マラリア、デング熱、日本脳炎及びウエストナイル熱、並びにネズミ由来のペスト、ラッサ熱、クリミア・コンゴ出血熱、ハンタウイルス肺症候群、腎症候性出血熱、リンパ球性脈絡髄膜炎、レプトスピラ及び野兎病。)が、我が国へ侵入・定着する可能性をリスク分析、評価した。主要な海港・空港でのベクターサーベイランスの必要性を判断、リスク管理する基礎資料とする試みを紹介する。
 
【1.リスク分析】
  海外から侵入するズーノシスのリスク分析は、多方面からそのリスクを評価する必要があり、リスクファクターとなる次の4項目を選んだ。
(1)   感染症の重要度:ズーノシスのヒトへの健康被害の重篤度、感染力、ワクチン、治療法などによる動物グループ別の感染症重要度分類表の☆印の数(動物由来感染症対策予防体制の強化に関する研究報告書より)を5段階とした。
(2)   ズーノシスの流行度:世界におけるズーノシスの患者発生数等(GIDEONより)を基に年平均患者数から「非常に多い」、「多い」、「中程度」、「少ない」、「問題なし」の5段階とした。
(3)   入港船舶・航空機:主要な港への入港実績数を調べ、実績別に5段階とした。
(4)   蚊・ネズミの捕獲個体数:主要な港でのベクターの捕獲個体数や外来種、媒介種の存在を基に5段階とした。
 
【2.リスク評価】
(1)   主要な港での疾病別のリスク評価(一次ステップの評価):疾病別の危険レベルを決定。
(2)   疾病別の検疫港における危険レベル(二次ステップの評価):ズーノシスが侵入定着する可能性から見て「非常に危険」な疾病としてレプトスピラ、腎症候性出血熱、マラリア、デング熱の4疾病、「危険」な疾病としてペスト、ウエストナイル熱、日本脳炎の3疾病であった。また、最も侵入定着する危険の高い港は、横浜港、次いで神戸港、名古屋港、成田空港、東京港、関西空港等の順であった。
 
【3.今後の侵入動物のズーノシス対策】
  リスク分析、評価の結果、全国の主要な海港・空港では、常に何らかの感染症にさらされている状況にある。従って、ズーノシスの侵入動物対策は、全国を統一した手法で港毎にリスク分析、評価を行った上で、効果的、効率的なベクターサーベイランスの実施及びリスク管理を行っていく必要がある。
 
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