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第3回 人と動物の共通感染症研究会学術集会
 
11 リーシュマニア症の世界の動向と国内の現状および海外疫学調査について
 
 片倉 賢(群馬大院・医系・国際寄生虫病生態学),橋口義久(高知医大・寄生虫学)
 
【リーシュマニア症の動向】
  リーシュマニア症はサシチョウバエが媒介する節足動物媒介性感染症で,100種類以上の脊椎動物が保虫宿主となる動物由来原虫性疾患である。ヒトへの伝播にはイヌと齧歯類がとくに重要である。患者数は 88カ国で約 1,200万人にも達し,発生率は年間約 200万人,3億 5千万人が感染の危険に曝されている。近年,患者数は増加しており,例えばアフガニスタンでは難民を含めた 20万人以上の大発生が見られている。リーシュマニアはマクロファージの細胞内で増殖する偏性細胞内寄生性原虫で,人体に感染する種類は 20種以上知られている。ヒトの臨床症状は3つに大きく分かれ,内臓型では造血機能の低下に伴った致死的経過をとる。皮膚型と粘膜・皮膚型での皮膚病変の醜悪さは著しい精神的苦痛をあたえる。副作用の強いアンチモン注射薬が今なお第1選択薬として使用されているが,アンチモン耐性株も出現している。こうした事情を鑑み,WHO/tdRはリーシュマニア症を対策の最も困難な熱帯感染症(カテゴリーI)として位置づけている。
 
【国内の現状】
  これまで約 400例の輸入症例が報告されている。その 70%は戦後帰還兵の内臓型で,皮膚型は中近東やアフリカでの砂漠工事関係者や海外青年協力隊員などに多くみられる。一方,スペインからの輸入犬における皮膚リーシュマニア症が報告されており,輸入動物が病原体を保有している可能性も考えられる。国内には非媒介性のサシチョウバエは棲息するが,媒介種の棲息は確認されていない。ところが,サシチョウバエが棲息しないとされている北米において猟犬の集団感染(抗体陽性)が報告され,伝播経路の解明が待たれている。こうした情勢下において,我が国でも在外邦人,流行国からの外国人および輸入犬におけるリーシュマニア感染の実態を把握する必要があると思われる。
 
【海外でのリーシュマニア症の疫学調査】
  演者らは,南米のエクアドルにおいて 20年以上にわたってリーシュマニア症の調査・研究に携わってきた。その結果,150以上のリーシュマニア株を分離・同定し,同国には6種のリーシュマニアが地理的に異なって分布すること,4種のサシチョウバエが媒介者であること,7種の哺乳動物が保虫宿主であることなどを明らかにしてきた。本発表ではエクアドルでの研究成果を中心に,パキスタンにおける最近のアウトブレイクについても紹介する。
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