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第3回 人と動物の共通感染症研究会学術集会
 
教育講演 ズーノシスのサーベイランスと危機管理
 
 谷口清州
国立感染症研究所感染症情報センター
 
  重症急性呼吸器症候群(SARS)は21世紀最初の新興感染症であり、なおかつ、このウイルスの由来は、少なくとも野生動物が起源であろうと考えられている。この例を引くまでもなく、近年世界で発生した新興・再興感染症のほとんどは動物が関与しており、ウガンダでのエボラ出血熱、サウジアラビアでのリフトバレー熱、マレイシアで発生したニパウイルス脳炎、世界で同時多発的に発生した、トライアスロン競技に起因するレプトスピラ症、米国で西半球ではじめて発見された西ナイル熱、香港でのH5N1あるいはオランダでのH7N7が確認されたトリ型インフルエンザ、枚挙にいとまがないが、また、特筆するべきは、これらの中には高い死亡率のものもかなり含まれており、またこれまでほとんど見られたことがなく、容易にパニックを誘発するということから、公衆衛生学的に極めて重要であるということである。
 
  どんな疾患であっても、まずは探知できなければ何ら対策をとることはできず、サーベイランスが極めて重要であることは言うまでもないが、その手法においてヒトのみにおける感染症と異なるところは、被害者あるいは保因者である動物をSentinelとして利用できることである。古くは日本脳炎のブタにおけるサーベイランス、最近では西ナイル熱における死亡鳥のサーベイランスなどが代表であるが、逆に感染源が特定できなければ、有効な対策のとりようがなく、動物におけるサーベイランスは危機管理上も極めて重要なのである。マレイシアでのニパウイルス脳炎の勃発時に、当初はブタにおける急性呼吸器症候群の発生に気付かれておらず、日本脳炎で説明が付かないということが判明してから、この事実に気付かれたこと、あるいはコンゴで毎年のように発生するエボラ出血熱もヒトでのアウトブレイクが発生してから、その発端がジャングルで死亡していたゴリラであったということが判明しているのである。
 
  すなわち、ズーノシスの対策のためには、ヒトと動物におけるサーベイランスの融合が不可欠なのであるが、動物におけるサーベイランスは、多数の動物種とそれぞれに疾患が異なり、そしてそれそれの疾患の動物へのインパクトも異なり、もちろん動物は自分で医療機関にいくわけでもなく、種々の制限があると考える。危機管理はすべてバランス感覚であり、それぞれのズーノーシスの、ヒトおよびその動物に対するインパクトとリスク、サーベイランス手法の実効性等を勘案の上設計されるべきであると考える。
 
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