第2回シンポジウム 「ズーノシスのリスクアナリシスを考える」 研究会目次


5 感染症の分析疫学
 
廣田 良夫 大阪市立大学大学院医学研究科公衆衛生学
 
1. 分析疫学の方法論
コーホ−ト研究( cohort study, prospective study)
  要因を有する集団 (F1)と有していない集団(F0)からの疾病の発生頻度(a,b)を比較するものである。発生率の比(a/F1)/(b/F0)を相対危険と言い、当該要因へ暴露した場合、非暴露に比べて何倍罹患リスクが高いかを示すものである。たとえば喫煙者群と非喫煙者群を追跡して各々の群からの肺がん発生率を比較するような研究がこれに該当する。
 要因の有無を確認後に患者の発生を調査するので、原因と結果が逆転する心配がなく、観察研究による関連性の調査手法としては最も優れた方法である。
 
症例・対照研究( case-control study, retrospective study)
  症例群 (D1)と適切に選択した対照群(D0)の間で、以前の要因の保有状況(a,c)を比較するものであり、相対危険の推定値としてオッズ比(a/b)/(c/d)を求める。たとえば肺がん患者群と対照群の間で過去の喫煙習慣を比較するような例がこれに相当する。
 
介入研究( intervention study, experimental study)
  動物実験のように、要因へ暴露させる群と暴露させない群に集団を区分して、コーホート研究のように各群からの疾病の発生頻度を比較するものである。
 
2. 研究の妥当性
交絡
  研究の対象としている要因に暴露している集団と暴露していない集団の間で、ある特定の要因の分布が異なり、その特定の要因自体が研究中の疾病とも関連を有する場合、その要因を交絡因子 (confounder)という。たとえば飲酒と肺がんの関連を認めたとしても、これは飲酒者に喫煙習慣を有する者が多く、また喫煙と肺がんが関連しているために、このような見かけ上の関連が生じたものである。この場合喫煙がconfounderとなる。
 
誤分類
  誤分類には non-differential/differential misclassificationとexposure/disease misclassificationの2面がある。
 
  Non-differential misclassificationに属するexposure misclassificationの例としては、食道がんと飲酒習慣の関連を調べるときの飲酒・非飲酒の分類、飲酒量・飲酒年数の分類などがあげられる。情報源が個人の記憶や応答に存在しているため、避けることができない誤分類である。Disease misclassificationの例としては、インフルエンザワクチン接種とインフルエンザ罹患の調査があげられる。この際インフルエンザウイルス感染症を特定することが困難であるためインフルエンザ様疾患を調査することになるが、罹患者にインフルエンザウイルス以外の病原体によるかぜ症候群が含まれるし,非罹患者にもインフルエンザウイルス感染者が含まれる。このように要因の誤分類が疾病カテゴリ−間(D1 vs D2)で、あるいは疾病の誤分類が要因カテゴリ−間(F1 vs F0)で同様に(独立して)生じる場合をnon-differential misclassificationと言い、カテゴリ−間の希釈効果(diluting effect)により関連の強さをunderestimateする。
 
  Differential misclassificationに属するexposure misclassificationは、疾患の家族性発生を調べる場合などに生じやすく、このとき患者群は対照群に比べてより遠い親戚のことまで思い出して答えることがある(recall bias)。またdisease misclassificationの例としては、喫煙と慢性気管支炎の関連があげられる。この場合医師は、非喫煙者に対するより喫煙者に対しての方がはるかに慢性気管支炎の診断をつけやすい(diagnostic suspicion bias)。このようにdifferential misclassificationとは、カテゴリ−間で偏った誤分類が生じることであり、関連の測定結果はoverestimationになることもunderestimationになることもある。偏りの大きさや方向を推定することが困難なため、深刻な誤分類である。
 
選択バイアス
  調査対象者が選択される過程で、特性の分布に偏りが生ずることを示す。たとえば運動と虚血性心疾患の関連を調べる目的で、週3回2kmのジョギングをする群と、何もしない群を設定し、その後の虚血性心疾患の発生を比較するとしよう。この場合希望者をジョギング群に割り付けると、当然運動以外にも食事や喫煙習慣等、より健康に気を付ける人がジョギング群に含まれることになり、結果に影響を及ぼす。
 
要  因
疾病 あり なし
あり a b D1
なし c d D0
F1 F0 T
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