第2回シンポジウム 「ズーノシスのリスクアナリシスを考える」 研究会目次


2 食品衛生分野におけるリスクアナリシスの現状 −微生物学的リスクアナリシス
 
 山本茂貴 国立医薬品食品衛生研究所
 
はじめに
  近年、腸管出血性大腸菌 O157:H7、サルモネラ属菌、腸炎ビブリオ、小型球形ウイルス等の食中毒、BSE問題等食品の安全性を脅かす事件が続発している。食品の世界規模での流通が活発化する中、WTOやCodex委員会において食品衛生分野における微生物コントロールにリスクアナリシスを適用することが求められる様になった。それを受けてFAOとWHOは合同で国際的な微生物学的リスクアセスメント(MRA)を2000年1月より開始した。
  国際的微生物学的リスクアセスメントの対象は、 2000年1月からの2年間で鶏肉とサルモネラ属菌、鶏卵とサルモネラエンテリティディス、Ready-to-eat foodsとリステリアモノサイトゲネス、2001年からの2年間は魚介類とビブリオおよび鶏肉とカンピロバクターであった。
  
リスクアナリシスとは
  リスクアナリシスはリスクマネージメント、リスクアセスメント、およびリスクコミュニケーションの三要素からできている。
  リスクマネージメントは Codex委員会においてガイドラインを作成中であり、現時点では以下の4つのコンポーネントからなっている。1. risk evaluation, 2. risk management options assessment, 3. implementation, 4. monitoring and reviewである。
 
1.

risk evaluationでは問題を探知認識し、どの様な緊急対策や既存の手段が適用可能かを検討する。その結果、リスクアセスメントの必要なものはリスクアセスメントを行う。

2. risk management options assessmentでは採りうる対策の選択を行う。risk assessmentの結果様々な対策が提案される場合に、費用対効果やリスクコミュニケーションによる関係者(製造者や消費者を含む)の意見を考慮して対策の選択を行う。
3. implementationは先に決定された対策を実施することである。
4. monitoring and reviewは対策を実施したあとその効果を観察し効果の判定と再検討の必要性を判断することである。
 
リスクアセスメントはどの様な場合に有効なのか?
  リスクマネージメントにおいて MRAが利用されるが、MRAは決断支援のツールにすぎない。これまでも微生物学的危害に関連したリスクを軽減化するためにGood Hygiene Practice, Good Manufacturing Practice, およびHACCPなどが用いられてきた。しかし、MRAはある状況下ではリスクを管理するための有効なツールとなる。
 
1.

衛生規範やガイダンスを作成する場合: MRAは微生物危害をコントロールするための最良の施策を見つける助けとなる。

2. 定量的基準値を設定する場合: MRAは人が病気になる菌数に関する情報を提供する。
3. 特別な措置の価値や効果を評価する場合:例えば、人の健康リスクを軽減するため、別個の食品衛生管理システムの同等性を評価するために用いられる。
4. 扱う問題や対策を科学的に優先順位付けすることにより幅広い食品衛生施策に対して改善を図ることができる。
5.

生産から消費までのフードチェーンにおいてリスク軽減化施策を行うポイントを見つける。

6.

予算や人的資源の有効な利用を考慮しつつ食品と食品群の優先順位付けする。

7. 研究やデータ収集の必要性を認識し強調する場合
 
微生物学的リスクアセスメントとは
  微生物学的リスクアセスメントは、定性的もしくは定量的なものがあるが、 Codex委員会において1999年にガイドラインが作成されており、1. hazard identification 2. exposure assessment 3. hazard characterization 4. risk characterizationの4つのコンポーネントからなっている
 
1. hazard identificationは食品と微生物の組み合わせで問題となっているものを過去の食中毒事例等から検討することであり、その問題に関してどの様なデータが存在しているかも併せて調査する。
2. exposure assessmentは病原微生物の摂食量を推計することである。摂食する食品の量とその食品の汚染病原体量および汚染頻度を併せて推計する必要がある。
3. hazard characterizationはある摂食病原体量における感染もしくは発症確率を推計することである。この場合、人を用いた感染実験も過去に行われているが、必ずしもすべてのすべての人を代表する実験対象ではないことから、過去の食中毒事例におけるデータから推計する方がより現実に近いと考えられている。
4.

risk characterizationはこれまで用いたデータの変動(variability)と不確実性(uncertainty)を考慮したり、対象となる人の集団を考慮して最終的なリスクをその起きうる確率と程度で推計することである。また、採りうる対策案の効果を科学的に比較することも重要な点である。

 
微生物学的リスクアセスメントとしてこれまでも様々な食品と病原体の組み合わせで行われている。確率論的リスクアセスメントは、国際的モデルが提唱されてきており、 Codex委員会でいう様な本格的なリスクアセスメントはリスクアナリシスの枠組みの中で行われるべきである。わが国でも確率論的微生物学的リスクアセスメントに取り組み始めている。
 
リスクコミュニケーション
  リスクコミュニケーションは情報の一方的な伝達ではない。リスクコミュニケーションとは、リスクコントロールに係わるすべての関係者、例えば、リスクマネージャー、リスクアセッサー、食品製造関係者、消費者などが情報を共有し双方向に意見を交換することである。特に重要なのは、「確率論的微生物学的リスクアセスメントでは健康危害の発生リスクがゼロにはならない」ことである。このため、リスクコミュニケーションによる消費者の理解とリスクマネージャーの判断がリスクコミュニケーションを通じて図られる必要がある。
 
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