第1回シンポジウム 「国内外の人と動物の共通感染症の現状と問題点」 研究会目次


2 国際交流と我が国の動物由来感染症
 
 小澤義博  国際獣疫事務局*
 
1. 国際交流と貿易のグローバル化
  ガットのウルグアイ・ラウンド交渉が1994年に成立し、SPS(衛生植物検疫措置)(1)が承認され、1995年に世界貿易機関WTOがスイスに設立され、貿易の自由化が促進されることになった。その結果、貿易のグローバル化、ボーダーレスの国際交流が進められてきたが、同時に犯罪や病気のグローバル化も常に考慮して対処することが必要となってきた。
  
  世界一の食肉その他の食糧や飼料の輸入国である日本は、検疫やサーベイランスを強化しても、病気が日本に侵入する可能性はこれから次第に高くなっていくものと思われる。最近のO-157、口蹄疫やBSE(牛海綿状脳症)がそのよい例で、今後もさらに新しい病気が日本に侵入する可能性は高い。特に、野生動物を含む動物(家畜、ペットや実験動物等)の移動、食肉や飼料などの汚染物質の輸入、人の交流や旅行者の増加によりズーノーシスの侵入の危険度はますます高まるものと思われる。
 
2. 日本に侵入する可能性の高いズーノーシス
  日本に存在するズーノーシスには細菌(O-157、サルモネラ、ブルセラ等)、ウイルス(日本脳炎、オーエスキー病等)、プリオン(BSE)や寄生虫(エキノコッカス、トキソプラズマ等)などがあるが、貿易の自由化や人の移動のグローバル化は海外で流行しているズーノーシスが日本に侵入する可能性が今急速に高くなりつつあることを意味している。
 
  最近、近隣諸国や交流の盛んな国で流行が見られ、日本に侵入する可能性が高いと思われる病気(2)をいくつか列挙してみると
a) 鳥インフルエンザ(中国、オーストラリア...)
b) 狂犬病(中国、韓国、ロシア、ベトナム、フィリピン...)
c) ニパウイルス病(マレーシア、シンガポール)
d) ウェストナイルウイルス(アフリカ、アメリカ、カナダ、フランス)
e) リフトバレー熱(サウジアラビア、イエメン、イラク?)
f)  オウム病(世界各地、特に中南米)
などがあるが、その中で侵入の危険度の高い狂犬病、リフトバレー熱、ウェストナイルウイルス病、ニパウイルス病の最近の傾向について説明を加える。
 
3. 疫学の重要性 (3)
  国内だけでなく海外の病気や貿易の情報収集とその解析および病気侵入のリスク分析を常時行い、国内外の病気発生の予測や準備を整えておく必要がある。
  国内の病気の監視体制を強化し、新しい病気の侵入をすばやく探知できるような、能動的な監視システムを新興ズーノーシスに適用していく必要がある。主な疾病の監視システムの強化やシステムの評価を行う必要もある。
  また、病気の侵入ルートや家畜の移動先をいつでもトレース・バック出来るような家畜の個体識別システムの完備も疫学的調査に必要となる。
 
4. 危機管理体制の強化 (4)
  SPS協定の実施にあたって強調されるのが、リスク分析と危機管理体制の確立である。
  BSEや狂犬病の侵入する以前から緊急時のマニュアルを作り、実際に病気が侵入した時にはすぐに現場に駆けつけ、即座に対応策がとれるような緊急対応組織を作っておく必要がある。緊急対応の遅れは経済的、社会的被害を大きくするだけでなく、撲滅可能な病気も撲滅出来なくなってしまう。
  また、最近しばしば話題になる、病原菌やウイルスを使ったテロ攻撃は危機管理体制が出来ていないところが狙われるので、テロ対策研究グループを本研究会の中に作る必要があると思う。
  また、出来れば、主なズーノーシスのリファレンス・ラボラトリーのリストを作り、ネットワークを構築して、海外のリファレンス・ラボラトリーとの連携を強めていく必要がある。
 
 
引用文献
(1) 小澤義博:貿易の自由化の進展と家畜伝染病の防疫対策、日本(農学会シンポジューム、1999年4月)、農業および園芸、74(10)41-49、1999
(2) 小澤義博:海外悪性伝染病と人獣共通感染症、ProVet、5-9、1997年11月
(3) 小澤義博:獣医疫学の重要性、13-15、獣医情報疫学雑誌、36、13-15、1996
(4) 小澤義博:海外における国際家禽伝染病の発生と緊急防疫体制の必要性、鶏病研報、33、23-31、1997
 
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