第10回 人と動物の共通感染症研究会学術集会 研究会目次

P-2 オウム病クラミジア集団発生事例分離株の全ゲノム配列決定
 
○大屋賢司1)、黒田誠2)、関塚剛史2)、Garry Meyers3)、岸本寿男4)、安藤秀二4)、福士秀人1)
岐阜大学応用生物科学部獣医微生物学分野、2) 国立感染症研究所病原体ゲノム解析研究センター、
3) Institute for Genome Sciences, University of Maryland、 4) 国立感染症研究所ウイルス第一部第五室
 
  Chlamydophila psittaci によるオウム病は四類感染症に指定され、国内でも集団発生を含む年間40 例前後の発生が見られる人獣共通感染症である。クラミジアは偏性細胞内寄生性を示し、他菌種において適応可能な遺伝子操作系が存在しないため、その病原性解析にはゲノム情報が不可欠である。人や動物に病原性を示すクラミジアのゲノムに関しては、性器クラミジアChlamydiatrachomatis や肺炎クラミジアC. pneumoniae 等2 属6 菌種において公開されているが、人獣共通感染症の起因菌として重要なC. psittaci ゲノムに関して公開されているものはない。我々は、C. psittaci の病原性解析及び種鑑別診断系開発を、比較ゲノム解析の視点から行うために、C.psittaci 日本分離株の全ゲノム配列決定を試みた。対象とする株は、2001 年鳥展示施設における人への集団感染時に分離されたC. psittaci Mat116 株を選択した。感染細胞より精製した菌体からゲノムDNA を抽出し、解析に供した。ドラフト配列を既読クラミジアゲノム配列と比較し、コンティグの並びを推定し、ギャップクローズ、アノテーションを行った。Mat116 株ゲノムは全長1,163kbp、GC 含量は39.1%、推定コード配列(CDS)は999 個であった。既読クラミジアゲノムとの総当たりBLAST 解析の結果、C. psittaci 固有と想定されるCDS が少なくとも3 個存在した。羊流産クラミジアC. abortus やネコクラミジアC. felis 等の動物由来クラミドフィラに固有のtransmembrane-head (TMH)領域はC. psittaci ゲノムにおいても存在していた。我々はC. felis において、TMH 領域にコードされる蛋白質が、C. felis 特異的な診断用抗原として有用であることを報告したが(Clin. Vaccine Immunol., 2008; Vet. Microbiol. In press)、C. psittaci TMH 領域のCDS もC. pneumoniae 等との鑑別診断用の標的として有用であるかも知れない。C. abortus ゲノムとの比較解析の結果、C. psittaci には約18 kb 相当の領域が挿入されていた。現在は、複数のC. psittaci 株ゲノムの比較解析を実施中である。ゲノム解析の結果得られたC. psittaci  固有の領域、蛋白質を詳細に解析することにより、本菌の病原性解析、鑑別診断系開発に結びつけたい。
 
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