第9回 人と動物の共通感染症研究会学術集会 研究会目次

教育講演2 インフルエンザウイルスと野鳥との関わり
 
伊藤壽啓
鳥取大学農学部附属鳥由来人獣共通感染症疫学研究センター
 
  A型インフルエンザウイルスは人のみならず様々な哺乳動物や鳥類に自然感染する。それらの宿主のうち、カモ等の野生水禽類は自然界に存在するすべての血清亜型のインフルエンザウイルスを保有している。一方、人や哺乳動物には限られた一部の亜型のウイルスが感染するに過ぎない。これまで蓄積された動物由来インフルエンザウイルスの生態調査や系統進化解析の成績から、地球上のすべてのインフルエンザウイルスはこの野生水禽が保有するウイルスを起源とすることが明らかとなっている。
  一方、2003年以降、世界中の家禽にH5N1亜型のウイルスによる高病原性鳥インフルエンザが大流行し、各国に多大な経済的損失をもたらすとともに、一部の国々では人への致死的感染も認められたことから、このウイルスが人の新型インフルエンザの最有力候補と危惧されていた。多くの予想に反して豚由来のH1N1ウイルスが出現し、世界中に広がった今も、このH5N1ウイルスの世界の蔓延状況は以前とあまり変化していない。
 さらに2005年頃から、H5N1ウイルスはヨーロッパやアフリカ諸国の家禽への流行拡大に伴い、各地で水鳥を含む様々な野鳥からも分離されるようになった。これまでの高病原性鳥インフルエンザウイルスは鶏舎内の鶏を100%殺すことはあっても、異なる宿主であるカモ等の水鳥は抵抗性を示すと考えられていた。しかし、近年のH5N1ウイルスは鶏のみならず水鳥に対しても強い病原性を示している。2005年5月、中国の青海湖で野生の水鳥6000羽以上がこのH5N1ウイルスに感染して死亡した。これは家禽に適応したH5N1ウイルスが再び水禽類に戻って、宿主適応変異を起した結果と考えられている。
  我が国においても2008年4月から5月にかけて、十和田湖畔さらには北海道において斃死または衰弱して発見されたオオハクチョウからH5N1亜型の高病原性鳥インフルエンザウイルスが確認された。これは我が国で最初の野生水禽類の高病原性鳥インフルエンザウイルス感染事例となった。
  そこで今回は環境省が中心となって実施している野鳥のサーベイランスの成績や国内の野鳥から分離された高病原性鳥インフルエンザウイルスの性状あるいはそれに対する野鳥の感受性等について、これまでの実験成績をまとめながら、インンフルエンザウイルスと野鳥との関わりについて考えてみたい。
 
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