第9回 人と動物の共通感染症研究会学術集会 研究会目次

3 ウエストナイルウイルスの鳥類における増殖性と極東ロシアでの抗体調査
 
○村田亮1)、橋口和明1)、前田秋彦2)、前田潤子1)、秋田紗希3)、田中智久3)
好井健太朗1)、苅和宏明1)、梅村孝司3)、高島郁夫1)
1) 北海道大学獣医学研究科・公衆衛生学教室、2) 北海道大学獣医学研究科・プリオン学講座
3) 北海道大学獣医学研究科・比較病理学教室
 
  1999年、ニューヨーク(NY)市で北米では初めてウエストナイル熱が確認され、その後わずか数年でアメリカ合衆国全域に流行が拡大した。原因のウエストナイルウイルス(WNV)は'90年代前半までは病原性の低いウイルスと考えられてきた。しかし、近年北米で流行している株は、終末宿主であるヒトやウマだけでなく、自然宿主である鳥類に対しても強い病原性を示す。多くの病原性の弱い株はエンベロープ(E)蛋白質上にN型糖鎖付加部位を欠損しており、近年の病原性の強い株は糖鎖付加部位を持つことから、WNVの強毒化には糖鎖付加部位の遺伝的変異が関っている可能性がある。現在WNVの分布域は北米大陸だけでなく、南米大陸およびロシアにおいても拡大しており、物流や渡り鳥を介したWNVの日本への侵入が危惧されている。日本国内での感染例はまだ報告されていないが、日本にはWNVを媒介可能な蚊と増幅動物となる鳥類が多く生息し、またWNVに近縁で血清学的に交差反応を示す日本脳炎ウイルス(JEV)が存在する。そこでWNVが侵入した際にヒトや鳥類においてウイルス感染を迅速に鑑別できる診断系の確立が緊急の課題となっている。これらの背景から以下の研究を行った。
 
1.ウエストナイルウイルスのE蛋白質上糖鎖付加がウイルス増殖に与える影響
  WNV NY株からE蛋白質上にN型糖鎖付加部位を持つLP株と糖鎖付加部位を持たないSP株を単離し、各ウイルスの増殖性を調べた。哺乳類および鳥類由来細胞において、高温条件下でLP株はSP株より高い増殖性を示した。また、鶏雛においてLP株はSP株に比べてウイルス血症のレベルや致死率が高く、重度の壊死性心筋炎を示し、より高い病原性を有していた。これらの結果から、WNVのE蛋白質上糖鎖付加は鳥類宿主内でウイルス血症を増強し、自然界の感染環におけるウイルスの効率的な伝播に寄与している可能性が示唆された。
 
2.ウエストナイル熱の血清診断法の評価と極東ロシアにおける疫学調査
  迅速なWNV鑑別診断法として、フォーカス減少法を基盤とした中和試験を構築した。この試験法をWNVまたはJEVを実験感染させた鶏雛の血清抗体測定に用いたところ、両者を特異的に鑑別することが可能であった。また、この試験法を用いて極東ロシアにおいて採取した野鳥血清中の抗体測定を行ったところ、145検体中21検体(14.5%)でWNVに対する中和抗体が検出され、極東ロシアの野鳥間にWNVが浸淫していることが示唆された。
 
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