第9回 人と動物の共通感染症研究会学術集会 研究会目次

4 人獣共通感染性・サルマラリアの現状と診断の問題点
 
○ 川合 覚1)、井関 博2)*、高橋延之2)、五十嵐郁男2)、千種雄一1)
1) 獨協医科大学熱帯病寄生虫病室、2)帯広畜産大学原虫病研究センター *現:動衛研・ウイルス病研究チーム
 
【研究の背景】
  マラリアは熱帯・亜熱帯を中心とした地域で、未だに猛威を振るっている重要感染症の一つである。従来ヒトのマラリアは熱帯熱マラリア、三日熱マラリア、四日熱マラリア、卵形マラリアの4種とされていたが、近年東南アジアの各地でサル・マラリア原虫( Plasmodium knowlesi、以下Pkと省略)のヒト感染例が次々に報告され、人獣共通の感染性を有する“第五のヒトマラリア”として拡大が懸念されている。この度の講演では、Pkヒト感染の現状と診断の問題点、そして新たな診断技術の開発について紹介する。
 
【ヒト・P. knowlesi 感染の現状】
  Pkはマカク属のサルを自然宿主とするサル・マラリア原虫の一種で、古くからヒトに感染性を有することが知られていたが、自然感染はごく稀な例と考えられてきた。しかしながら、2004年マレーシア・ボルネオ島でPkのヒト・集団感染例が報告されて以降、タイ、マレー半島、ミャンマー・中国国境地帯、シンガポール、およびフィリピン・パラワン島の地域住民に検出され、この中には2例の死亡例も含まれている。またこれらの地域に滞在後、ヨーロッパや米国に帰国した旅行者にも患者が発生しており、今後もPkの自然感染例が増加する可能性が高いと考えられている。
 
【診断の問題点】
  近年相次いでPk症例が検出されるようになった背景には、nested PCRを主体とした分子レベルの診断方法が発達したことによるが、臨床現場では確定診断の迅速性や簡便性について課題も多く残されている。通常、開発途上国におけるマラリアの診断は、顕微鏡検査のみで行なわれているが、Pkはヒトの四日熱マラリア原虫または熱帯熱マラリア原虫と形態的特徴が類似しており、鏡検では種の判別が困難である。また近年、一般化されつつあるマラリア迅速診断キットにおいても、ヒト・マラリア原虫抗原とPk抗原との間に交差反応が生じ、結果判定に支障をきたすことが明らかとなっている。
 
【新たな診断技術の開発】
  現在我々の研究グループでは、”Loop-Mediated Isothermal Amplification (LAMP)”法による、Pkの簡易迅速遺伝子診断法の開発を試みている。蛍光試薬を用いたLAMP法は、特殊な機器を必要とせず、安価かつ高感度でしかも迅速に結果が得られることから、国内における海外渡航者の診断だけでなく、設備の整っていない途上国での診断、さらに疫学調査への応用まで幅広い実用性が期待されている。
 
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