第8回 人と動物の共通感染症研究会学術集会 研究会目次

2 輸入マウスに感染していたリンパ球性脈絡髄膜炎ウイルスについて
 
○池 郁生1)、Franck Bourgad 2)、大沢一貴3)、佐藤 浩3*)、森川 茂4)、酒井宏治4)、西條政幸4)
倉根一郎4)、滝本一広5)、山田靖子5)、Jean Jaubert2)、Marion Berard2*)、中田初美1)、平岩典子1)
目加田和之1)、高倉 彰6)、伊藤豊志雄6)、小幡裕一1)、吉木 淳1)、Xavier Montaguteli 2)
1) 独立行政法人理化学研究所バイオリソースセンター実験動物開発室、
2) The Central Animal Facility、Institut Pasteur(*当時)
3) 長崎大学先導生命科学研究支援センター・比較動物医学分野(*当時)
4) 国立感染症研究所ウイルス第一部第一室、5) 同動物管理室
6) 財団法人実験動物中央研究所ICLASモニタリングセンター
 
  リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス(LCMV)はアレナウイルス科に属し、マウスやハムスターを自然宿主とするが、ヒトに感染すると妊婦や免疫不全患者等で問題化する。理化学研究所バイオリソースセンター実験動物開発室(BRC)は2001年からナショナルバイオリソースプロジェクトの下で実験用マウスの収集・保存・提供を開始し、現在までに3,000系統を超える寄託を受け、微生物学的清浄化および遺伝検査の終了した約2,000系統を公開している。実験用マウスの遺伝資源として、BRCの森脇やパスツール研究所のGuenetらは野外のマウスを実験動物化して野生マウス系統とし遺伝研究等に利用してきた。MAI/Pas系統はオーストリアで捕獲したMus m. musculus 由来の野生マウス系統である。2005年、BRCはパスツール研究所からMAI/Pas系統を輸入導入した。パスツール研究所は、飼育ケージの汚染床敷を微生物モニター動物へ定期的に接触させる方式で、LCMVを含む微生物モニタリングを行い、本系統は臨床症状も含めてLCMV陰性として報告されていた。BRCは本系統を輸入後、帝王切開で清浄化し、産まれたマウスの里親を実験動物中央研究所ICLASモニタリングセンター(実中研)に委託して微生物検査した。実中研は里親マウスの血清をLCMVの組換え抗原を用いたELISAで陰性と判定し、その他の項目も含め、BRCの微生物モニタリング基準すべてに陰性と報告した。それを基に、BRCは帝王切開で産まれたマウスをバリア施設内へ移動した。
 
  しばらくしてパスツール研究所からBRC宛に、MAI/Pas系統にLCMV感染の可能性がある、との連絡があった。BRCはパスツール研究所、長崎大学、国立感染症研究所、実中研と協力して、本系統が実際にLCMVに感染していることを確認して本系統の全マウスを安楽殺し、ただちに飼育関係者等ヒトを対象とした血清検査と、関連マウスの血清検査を行った。その一方で、ウイルス分離とゲノム遺伝子解析を行うとともに、組換え抗原を用いたELISAの再評価を行った。実中研は本感染確認以後、LCMV血清検査をIFAに変更し、2002年から2005年の全検査の保存検体をIFAで再検査した。
 
  LCMVのヒトへの感染と他のマウスへの感染は認められなかった。実中研の保存血清もMAI/Pas関係検体以外はすべてIFAでLCMV陰性であった。ウイルスゲノムの解析から、分離株M1は今までに報告のない株であることが分かった。LCMV組換え抗原およびウイルス精製抗原を用いたELISAは保存里親血清やM1感染マウス血清と強い反応を示し、LCMV血清検査として、IFAのほかELISAが有効であることを確認した。
 
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