第8回 人と動物の共通感染症研究会学術集会 研究会目次

11 宮崎県におけるレプトスピラ症の実地疫学調査
 
○鈴木 智之1)、高橋 亮太1)、塩山 陽子2)、山本 正悟2)、岩切 章2)、三浦 美穂2)、石川 幸治3)、相馬 宏敏3)
小泉 信夫4)、武藤 麻紀4)、中島 一敏5)、岡部 信彦5)
1)国立感染症研究所実地疫学専門家養成コース、2)宮崎県衛生環境研究所、3)宮崎県健康増進課、
4)国立感染症研究所細菌第1部、5)国立感染症研究所感染症情報センター
 
【背景】
  平成18年10月に延岡保健所へヒトのレプトスピラ症5例が同一の医師によって報告された。この事例の端緒は、この医師が一例の不明熱患者を国立感染症研究所にてレプトスピラ症検査を依頼した結果、レプトスピラ症の確定診断を得たことであった。その後、院内で同様の臨床所見を示す患者を検索した結果、新たに4例(合計5例)のレプトスピラ症が確認された。11月14日までに宮崎県において合計8例の確定症例(症例)が確認され、同県において短期間での症例の集積は異常であり、集団発生が疑われたため、同県の依頼により国立感染症研究所細菌第一部と実地疫学専門家養成コース(FETP)による調査が開始された。
 
【調査の目的】
  集団発生の確認、本事例の全体像の確認、感染経路・感染源・感染危険因子の特定と再発防止のための提言
 
【方法】
  (1) ヒト症例の調査;症例の情報収集(生活環境観察、質問票による土・水や動物との接触などの行動歴調査、臨床情報)、発生状況調査(過去3年間の本症情報収集)、積極的症例探索(平成18年7月1日以降における本症疑い例の情報収集)、症例対照研究[居住地域と年齢をマッチさせた対照者(入院患者)に対して行動歴に関する質問票調査と血清学的検査(MAT法)の実施]、
  (2) 動物の調査;野生動物(症例の居住地・農地周辺の野鼠、宮崎県北部のイノシシ・シカ)における保菌の確認(分離培養・PCR法)、発生状況調査(過去3年間におけるイヌの本症情報収集)
 
【結果と考察】
  積極的症例探索の結果、新たな症例は確認されなかったため、調査は宮崎県北部(延岡・高千穂・日向保健所管内)の7例、宮崎市の1例を対象として実施した。男女比は5:3、年齢中央値は62.5歳(53歳〜77歳)であった。全例MAT法による血清抗体上昇で確定されたが、居住地域毎に異なる4血清型(Hebdomadis;5例、Autumnalis;1例、Australis;1例、Poi;1例)に対し陽性であった。症例の居住地は広域に分布し行動場所や飲水に共通点はなかった。症例対照研究の結果、感染の危険因子は農作業時・野鼠接触時の防護具の未使用、接触皮膚面の創傷であることが示され、感染源は山に近い農地における汚染された土・水と野鼠、感染経路は汚染された土・水や野鼠の直接接触等が考えられた。また、症例の居住地付近で,各症例と同じ血清型のレプトスピラを保菌している野鼠が確認された。動物の調査においては、イヌ(ペット・狩猟犬)のレプトスピラ症は宮崎県のほぼ全域に分布しており、ペット・狩猟犬ともに毎年秋季に患畜数が増加していること、さらに宮崎県北部で捕獲されたイノシシやシカでもレプトスピラの保菌が確認された。したがって、本事例におけるレプトスピラ症の発生は慢性的な地域流行の一部と考えられ、本症は把握されている患者数以上に存在していることが示唆された。本調査結果よりFETPから宮崎県に対して、1)感染予防と早期発見・早期診断の推進、2)診断支援、3)調査研究の推進を提言した。
 
【調査チーム】
   宮崎県 保健福祉部健康増進課、同 衛生環境研究所、同 感染症情報センター、延岡保健所、高千穂保健所、日向保健所、宮崎市保健所、国立感染症研究所 細菌第一部、同 感染症情報センター
 
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