第8回 人と動物の共通感染症研究会学術集会 研究会目次

9 ジャンガリアンハムスターPhodopus sungorus における致死性パスツレラ症の集団発生
 
○藤本 奈央子1)、吉田 裕一2)、岡谷 友三 アレシヤンドレ2)、宇根 有美1)
1)麻布大・獣医・病理、2)麻布大・獣医・公衆衛生II
 
【はじめに】
  パスツレラ症はパスツレラ属菌による日和見感染的要素の強い感染症で、その代表的菌種であるPasteurella multocida は牛の出血性敗血症や家禽コレラなどを引き起こすとともに、犬や猫を健康保菌者として、これらの動物の咬傷や引っ掻き傷がヒトにパスツレラ症を起こす。ハムスターは年間約35万頭輸入され(平成19年度)、輸入哺乳類の79%を占めている。現在のところ、ハムスターのパスツレラ症として、シリアンハムスターのP. pneumotropica による感染死事例の報告があるのみで、P. multocida によるパスツレラ症の報告はなく、さらに分離されたこともない。今回、輸入直後のジャンガリアンハムスターの致死的パスツレラ症の集団発生に遭遇し、これらのハムスターからP. multocida が分離されたので、その概要を報告する。
 
【発生状況】
  2008年1月7日に某動物輸入会社が台湾よりジャンガリアンハムスター1096匹(4週齢)、約20箱を輸入したところ、1月10日までに、そのうちの1箱(A箱)50匹中40匹が死亡した。A箱の生き残り10匹を別のB箱(50匹)と繁殖ケージ (成体5匹、同施設内で繁殖用に飼育していた群)に各5匹を加えたところ、その翌日の1月11日にB箱55匹中25匹が死亡、繁殖ケージ10匹中9匹が死亡した。その後、2つの飼育箱の生き残り31匹を同居させたところ、翌日31匹中14匹が死亡、さらに1月13日には1匹が死亡し、これを最後に連続死は終息した。ほとんどの死亡個体はうずくまるように死亡しており、下痢はなく、呼吸器症状も明らかでなかった。なお、A箱のハムスターと接触した動物のうち、輸入後6日時点で生き残っていた動物は105匹中16匹(成体1匹、4週齢15匹)で、これらには臨床上異常は確認されなかった。これらの症例のうち、死亡個体2匹と生き残り16匹を病理学的および微生物学的に検索した。
 
【結果】
  肺は退縮不全で、水腫性で、点状出血が密発していた。病理組織学的所見:おびただしい数のグラム陰性桿菌が肺、脾臓と肝臓に観察された。肺は全葉にわたって肺胞内水腫と出血が高度で炎症は目立たなかった。赤脾髄は広範に壊死に陥り、肝臓では類洞が高度に拡張していた。微生物学的所見:死亡個体の肺、脾臓、肝臓から純培養状にP.multocida が分離され、莢膜型はAに型別された。なお、生き残った動物からP.multocida は分離されなかった。
 
【まとめ】
    以上の経過と検査所見より、ハムスターは経気道性に侵入したP.multocida の劇的な増殖とその産生毒素により甚急性の経過をとって死亡したものと考えた。パスツレラ症の病態は血清型、特に莢膜型に関連するとされ、BとEによる草食獣の流行性の甚急性型(出血敗血症型)の報告がある。マウスへの病原性が高いとされるAのハムスターへの病原性については検証する必要がある。なお、感染時期および感染場所は特定できなかったが、ペットとして輸入数の多いハムスターにP.multocida による致死性パスツレラ症が流行したことから、動物衛生上のみならず、公衆衛生上の十分な注意が必要であると考えた。
 
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