第7回 人と動物の共通感染症研究会学術集会 研究会目次


11 輸入齧歯類におけるBartonella 属菌の保有状況ならびに分離株gltA 遺伝子の比較系統解析
 
○井上 快1),丸山総一1),壁谷英則1),瀧川裕一郎1),谷原 光1),泉 泰仁1),萩谷佳子1),
宇根有美2),吉川泰弘3)
1)日本大・獣医公衆衛生, 2)麻布大・病理学, 3)東京大・院・農学生命科学研究科
 
【背景】
  齧歯類は各種人獣共通感染症の病原巣あるいは感染源となるが,人に病原性を有す4種のBartonella 属菌を保有していることも報告されている。これまでのわれわれの研究から、わが国の野生齧歯類には高率(21.5%;142/662)にBartonella 属菌が分布しており、その多くが人に対し視神経網膜炎を起こす可能性のあるB. grahamii であることを明らかにした。
  一方、平成16年度には、424,979 頭の齧歯目が検疫されることなくわが国に輸入されているが、これらの動物のBartonella 属菌の保菌状況や分布する菌種は全く不明の状態である。そこで本研究では、輸入齧歯類におけるBartonella 属菌の保有状況について検討するとともに、その分離株とわが国の齧歯類から分離された株のgltA遺伝子について比較系統解析を行った。
 
【材料と方法】
  2004年から2006年の間に、世界の計8地域からペットとして輸入された齧歯類27種516頭の血液を分離材料とした。採取した血液は、5%兎血液加ハートインフージョン寒天培地を用い、35℃、5%CO2下で2週間培養した。培地上のBartonella 属菌を疑う分離株を純培養後、DNAを抽出し、gltA 領域を標的としたPCRにより本属菌であることを確認した。さらに、分離株とわが国の野生齧歯類由来株のgltA 遺伝子領域の塩基配列から菌種を同定するとともに、Neighbor-join 法により系統樹を作成し解析した。
 
【成績と考察】
今回調査した輸入齧歯類27種516頭のうち、17種142頭(27.5%)からBartonella 属菌が分離された。7種のリス科動物の31.7%(45/142)からは、人に心内膜炎を起こしうるB. washoensis が、2種のリス科動物の7.0%(10/142)からは、人に視神経網膜炎を起こしうるB. grahamii が分離された。6種のネズミ科動物の23.9%(34/142)からは、人に心内膜炎を起こしうるB. elizabethae が分離された。さらに、培養陽性個体の39.4%(56/142)が新種あるいは新亜種と思われるBartonella 属菌を保菌しており、9.2%(13/142)は異なるBartonella 菌種に混合感染していることが判明した。gltA 領域における系統解析の結果、輸入齧歯類から分離された株は、わが国の野生齧歯類の株とは異なるグループに分類された。
 本研究から、輸入齧歯類の種によっては、人に病原性のあるBartonella 属菌やわが国の野生齧歯類には分布していない菌種が高率に分布していることが明らかとなった。今後、飼い主や関係者に対しては、衛生的な飼育や公衆衛生面での啓発を行うとともに、個体の放逐等により輸入齧歯類が保有するBartonella属菌が本邦の齧歯類に浸潤することを未然に防止する措置が必要と思われた。
 
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