第7回 人と動物の共通感染症研究会学術集会 研究会目次


10 アライグマおよびハクビシンにおける人獣共通感染症原因菌の保有状況
 
○李 謙一1),中臺 文1),岩田剛敏1),加藤卓也2),羽山伸一2),廣田好和1),林谷秀樹1)
1)東京農工大, 2)日本獣医生命科学大
 
【目的】
  アライグマ(Procyon lotor)は、現在日本全国で野生化が確認されている外来生物である。アライグマは、農作物の被害や家屋侵入、在来生態系への悪影響などから大きな社会問題となっている。また、ハクビシン(Paguma larvata)は、近年都市部にもその生息地域が拡大し、一般家屋に侵入し住み着くなどして公衆衛生学的な観点からも問題化している。しかし、これらの動物における人獣共通感染症原因菌の保有状況に関してはこれまでほとんど検討されていない。そこで本研究では、日本で野生化しているアライグマならびに都市部で分布を広げているハクビシンにおける人獣共通感染症原因菌の保有状況を検討するとともに、得られた結果から両種が生態系の中で果たす役割を考察した。
 
【材料と方法】
  供試材料として、2006年3月〜2007年5月までの間に、神奈川県東部、東京都、および群馬県で捕獲されたアライグマ直腸便459検体ならびにハクビシンの直腸便153検体を用いた。供試材料はSalmonellaCampylobacter およびYersinia について、定法に従い分離、同定を行なった。
 
【結果と考察】
1. アライグマではSalmonell は26検体(5.7%)から分離された。分離された菌株の生物群は I 群が20株、IIIb 群が6株であった。I 群の血清型はS. Mbandaka (5株)、S. Typhimurium (4株)、S. Infantis (4株)、S. Nagoya (2株)、S. Berta (1株)、S. Manhattan (1株)、S. Nigeria (1株)、S. Rubislaw (1株)およびS. Thompson (1株)であった。Campylobacter は6検体(1.3%)から分離され、C. jejuni (3株)およびCampylobacter. spp. (3株)が同定された。Y. pseudotuberculosis は7検体(1.5%)から分離され、血清型は1b(4株)、4b(2株)および3(1株)であった。
 
2. ハクビシンではSalmonella は3検体(2.0%)から分離された。分離された菌株の生物群はI 群が3株であった。I 群の血清型はS. Enteritidis (1株)、S. Nagoya (1株)および型別不能(1株)であった。Campylobacter は11検体(7.2%)から分離され、いずれもCampylobacter. spp. と同定された。Y. pseudotuberculosis は6検体(3.9%)から分離され、血清型は1b(1株)、4b(3株)および3(2株)であった。
 
3. 以上のように、アライグマおよびハクビシンは人獣共通感染症原因菌を比較的高率に保有していることが明らかになった。また、外来生物であるアライグマは日本の生態系の中に定着し、これら病原体のレゼルボアとして重要な役割を果たしているものと考えられ、今後も継続的な調査が望まれる。
 
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