第7回 人と動物の共通感染症研究会学術集会 研究会目次


9 北海道のスズメおよびその生息環境におけるSalmonella Typhimuriumの汚染状況
 
○ 仁和岳史1),鈴木 智1),黒沢令子2),阿部永3),三部あすか4),宇根有美4),
泉谷秀昌5),渡辺治雄5),岡谷友三アレシャンドレ1),加藤行男1)
1)麻布大・公衆衛生第二, 2)北大・低温科学研, 3)北大・農学, 4)麻布大・病理学, 5)感染研・細菌第一
 
【目的】
  スズメは、日本各地に生息し、ヒトの生活に密接に関連している野鳥である。2005年12月から2006年4月にかけて、北海道においてスズメの大量死が報告されているが、その原因については明らかになっていない。我々は昨年の本研究会において、このスズメの一部が、Salmonella Typhimurium (以下ST)感染症で死亡していることを報告し、スズメの大量死の要因の一つにSTの感染があると推察した。その後、北海道においてスズメの大量死は報告されていないものの、本研究では、北海道においてスズメを中心とした野鳥がST 感染症で死亡する事例がどの程度あるのか、また、スズメの保有しているST 株がどの程度その生息環境を汚染しているのかを調査した。
 
【材料と方法】
  2006年10月から2007年4月までにスズメネットワークの関係者によって札幌市、小樽市、旭川市などで採取された斃死野鳥15検体(スズメ10検体、他5検体)、野鳥の糞78検体(スズメ58検体、他20検体)、哺乳動物の糞14検体(ネズミ10検体、ネコ3検体、テン1検体)、環境材料17検体(土8検体、餌台5検体、巣材4検体)および餌台上に置いたトレーの拭き取り(1日1回、5日連続)5検体からSalmonella の分離を行った。分離・培養・血清型別は常法に従い、一部の検体はST の菌数を測定した。ST と同定された株については、RAPD型別および一部の株についてはファージ型別を行った。
 
【結果と考察】
  斃死スズメ10検体中7検体からST が分離され、肝臓等の臓器中のST の菌数は3.6〜9.9 log cfu/gであった。これら細菌学的検査と病理学的所見と合わせて斃死スズメ10検体中6検体がST 感染による死亡と推定された。スズメ以外の斃死野鳥からSalmonella は検出されなかった。また、スズメの糞4検体、その他の鳥の糞2検体、ネコの糞2検体、テンの糞1検体、餌台1検体、巣材1検体、餌台上のトレーの拭き取り1検体からSalmonella が分離され、分離株の血清型はST のみであった。ST が分離されたのは、斃死スズメ1検体を除き、1月〜3月にかけて採材された検体であった。これらの検体から分離されたST 株のRAPD型はすべて同じで、ファージ型も検査した8株すべてDT40であった。
  以上のことより、今回1〜3月に採取された斃死スズメの死因の多くがST 感染症によるものであり、スズメに感染していたST 株が、スズメの生息地域の環境を汚染していることが明らかとなった。したがって、斃死しているスズメが高率にST に汚染されており、その取り扱いには注意すること、また、今回餌台からST が検出されていることより、冬場の餌台等の設置はスズメへのST 汚染を拡大させる要因になること等を周知させる必要がある。
 
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