第7回 人と動物の共通感染症研究会学術集会 研究会目次


8 本州におけるスズメ(Passer montanus)のSalmonella Typhimurium 感染症の集団発生
 
○三部あすか1),宇根有美1),鈴木智2),仁和岳史2),泉谷秀昌3),渡辺治雄3),加藤行男2)
1)麻布大・獣医・病理学, 2)麻布大・獣医・公衆衛生学第2, 3)国立感染症研究所
 
【はじめに】
  2006年夏に、関東のあるエリアでおきたスズメの集団死の原因を究明するため疫学的、病理学的および微生物学的に検索を行ったのでその概要を報告する。
 
【発生状況・材料と方法】
  7月上旬より1日2〜3羽の割合でスズメの死体が発見されるようになり、7月31日からの13日間で斃死体6羽、生体4羽を回収し、その後、9月の1羽の死亡を最後に流行は終息した。また、サルモネラの浸淫調査として、流行の起きていた8月に生体50羽を捕獲し、その後、9〜12月の間に3回、飛来するスズメの糞計214検体を回収した。併せて、同エリアで、同時期に死亡した飼育鳥37羽の病性鑑定と飼育されている鳥類・哺乳類106匹の糞便の細菌検査を実施した。これらの材料のうち、スズメ61羽と飼育鳥37羽、計98羽を病理学的に検索するとともに、主として肝臓、脾臓、腸管を微生物学的に検索し、死亡したスズメ、捕獲したスズメ、飼育鳥から分離された菌についてパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)検査、およびファージ型の検査を行った。
 
【結果】
  平均57.4%のスズメからSalmonella Typhimurium (以下 ST と略す)が分離され、7月〜8月に検索したスズメは100%(10/10)、8月に捕獲したスズメは50%(25/50)の割合でST が分離され、9月に斃死した1例はST 陰性であった。そして、飼育鳥8.1%(アヒル、ホロホロ鳥、カンムリヅル)、飼育動物の糞3.8%(エミュー、ツル、オオカミ、ハイエナ)、スズメの糞は平均2.3%の割合でST が分離された。また、PFGE検査のバンドパターンは全て一致し、ファージ型はすべてDT40であった。サルモネラを発症していたスズメに高率に観察された病変は、肝臓と脾臓の腫大と白色結節形成で、脾臓病変は全てのスズメに、肝臓病変は1羽を除いて全てにみられた。なお、そ嚢病変としては、白色結節が2羽、壁の肥厚が1羽であった。上記の臓器の組織所見としては、そ嚢炎が36.4%(4/11)、肝臓病変としては炎症が91%(10/11)、肉芽腫形成が36.4%(4/11)、脾臓病変としては壊死が45.5%(5/11)にみられた。
 
【考察】
 ST 症による野鳥の大量死は、欧米、ニュージーランドなどの国で報告されており、この種の鳥の個体数激減の原因として注目されている。特にフィンチ類は感受性が高いとされ、特徴的な所見としてはそ嚢炎、肝臓、脾臓の腫大、白色結節があげられている。今回、死亡あるいはST症を発症していたスズメにみられた特徴的な所見はそのうの白色結節や壁の肥厚、肝臓、脾臓の腫大と白色結節であった。これらの病理学的所見は諸外国でみられた野鳥のST 症と一致している。また、今回確認された菌のファージ型 DT40は国内で確認されたことのないもので、北米、ノルウェーの野鳥大量死に関わるST のファージ型と同一であった。以上の結果より、本州でみられたスズメの集団死は、病理学的および微生物学所見と、諸外国の野鳥のST 症の報告と併せ、ST に起因するものと判断した。また、スズメの斃死体が発見された同エリアのスズメの糞、飼育動物からも同一菌が分離されており、動物衛生上および公衆衛生上注意が必要であると思われる。
 
←前のページ次のページ→

研究会目次
カウンター