第7回 人と動物の共通感染症研究会学術集会 研究会目次


5 人獣共通感染症としてのブルセラ症の地球規模における抑制の緊要性について
− 家畜の経口生ワクチン開発への国際協同研究の成果
 
〇藤倉孝夫 (元)世界保健機関(WHO)上席獣医公衆衛生管理官
 
  この試験研究はWHO/FAO 合同ブルセラ症専門部会の勧告により組織された作業部会を中心に行われた。作業部会は英国、フランス、イタリア、スペイン、トルコ、リビア、アルゼンチン、中国の獣医学・医学系試験研究機関などに帰属する専門家により構成され、WHO/FAOにより運営された。分担された各試験研究はそれぞれの試験・研究機関でおこなわれた。ワクチン株 Brucella suis Strain 2 はXie Xin(1986、中国)により開発されたもので、英国中央獣医学研究所(CVL,Weybridge)で再樹立された。生物学的諸性状はB.suis 基準株(1330株)との違同につき検討された。ワクチン検定は、国際基準により実施された。
 
【成績】
1)ワクチン株(Strain 2)の生物学的諸性状;
R型への解離は認められず安定していた。
2)Strain 2の免疫原性;
従来のワクチン株(Starain 19, Rev 1)と遜色なかった。
3)Strain2ワクチンによる感染防御;
  1. モルモット 60匹を用いて経口免疫した免疫群では攻撃後すべて感染を免れたが(0/60)、対照群では95.0% (57/60)が感染した。
  2. ヒツジでは初妊動物を経口的に免疫しB.melitensis H38 株で攻撃したところ流産した試験動物は免疫群で43.2%(63/146)、対照群で86.6%(58/67)であった(p <0.05)。
  3. ブタでは免疫された妊娠1〜3ヶ月の試験豚を野外分離株(B.suis)で攻撃したところ、流産は認められなかった(0/19)。 
4)Strain2ワクチンによる野外試験;
  1. 中国 ヒツジ、ヤギ、ウシ、ヤク、ラクダ、ブタなどの家畜集団に飲水中へ、もしくは飼料中へStrain2 ワクチンを混和し経口的に投与された。内モンゴルをはじめ全ての試験地域で家畜のブルセラ症は激減し、ヒトのブルセラ症は撲滅された。広東省ではブルセラ感染豚は1%以下に激減し、ヒト集団での感染も終息した。
  2. リビア 西部山岳州砂漠地帯で中小反芻家畜へのStrain 2 ワクチンによる経口投与が行われた。経口投与はdrenching gun により効率的・効果的に行われた。1日に8,000〜12,000頭の家畜へのワクチン投与が可能であった。これにより家畜の流産率は急速に低下しNarut 県立病院のブルセラ感染患者は年間150〜200名から激減した。
 
【考察】
  本報告で述べたStrain 2 ワクチンは経済的かつ効率的に製造が可能で、resource が十分ではない現場への導入と応用が遥かに容易であった。未だ地球規模で存在するブルセラ症対策として経口ワクチンの導入が期待される。
 
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