第7回 人と動物の共通感染症研究会学術集会 研究会目次


4 新たなオウム病診断用抗原の探索
 
○杉浦尚子1),大屋賢司1),山口剛士2),福士秀人1)
1)岐阜大・獣医微生物, 2)現・鳥取大
 
【背景】
  クラミジアは、偏性細胞内寄生細菌で4科6属13種からなる。中でも、Chlamydophila psittaci によるオウム病は、感染症法の4類感染症に指定されている重要な人獣共通感染症であり、年間約40例の発生が報告されている。しかしながら、現行の血清診断においては、肺炎クラミジア C. pneumoniae との交差が起こるなどの問題点があり、実際の患者数は報告より多いことも考えられる。オウム病は、肺炎クラミジアとは異なり、4類感染症に定められているため、診断した医師は直ちに最寄りの保健所に届け出なければならない。そこで、クラミジア性肺炎を始めとした他の市中肺炎との鑑別が可能な、より特異的なオウム病の血清診断法の確立を目標に、新たなオウム病診断用抗原の探索をおこなった。
 
【方法】
  λZAPUシステムを用いてC.psittaci 国内分離株であるMat116株のゲノムライブラリーを作成し、マウス感染血清、ウサギ免疫血清を用いてスクリーニングした。得られた陽性クローンをpBluescript phagemid に転換し、T7およびT3プライマーを用いて挿入DNA の末端塩基配列を解読した。C. psittaci の全塩基配列は未解読のため、既読の他種クラミジア(C. abortus) 配列との相同性をBLASTによりデータベース解析した。また、ウサギ免疫血清を用いて、IPTG 存在下で培養したクローン含有大腸菌体のウェスタンブロットによる解析を行った。
 
【結果・考察】
  スクリーニングの結果、約6×105pfuのファージから6個の陽性クローンを得た。得られた陽性クローンの挿入DNAサイズは、300 bpから5 kbpと様々であった。挿入DNAの末端塩基配列を解読し、反芻獣クラミジアC. abortus の配列と比較解析したところ、LPS合成酵素(lpxB)、熱ショック蛋白質(groEL)、2種の膜蛋白質等をコードする遺伝子と90%以上の高い相同性を示す領域が確認され、これらの遺伝子産物が抗原性に関与している可能性が示唆された。ウサギ免疫血清を用いて、これらクローン含有菌体をウエスタンブロットに供したところ、groEL 配列の挿入されたクローンにおいて、予想される分子量60 kDaに強い反応が認められ、抗原性を有した状態で発現していることが確認された。現在、他の蛋白質についても抗原性の確認を行い、診断用抗原としての適正を検討している。また、GroEL はクラミジア間で保存性が高いことから、より抗原性、種特異性の高い抗原を得るための新たなスクリーニングを継続している。本研究により有用な抗原が得られれば、交差の少ない特異的な血清診断法が確立できると考える。
 
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