第7回 人と動物の共通感染症研究会学術集会 研究会目次


3 コウモリ由来ACE2発現細胞を用いたSARSコロナウイルスの感染性の解析
 
○福士秀悦1),平井明香2),新倉 綾2),山田靖子2),前田 健3),吉川泰弘4),
横山 勝5),水谷哲也1),酒井宏治1),西條政幸1),倉根一郎1),森川 茂1)
国立感染症研究所 1)ウイルス第一部, 2)動物管理室, 5)病原体ゲノム解析研究センター,
3)山口大・農・獣医学科, 4)東京大・院・農学生命科学研究科
 
【目的】
  SARS は、2003年に中国で発生後、短期間に世界中で広まり大流行した、高熱と呼吸器症状を主徴とし、感染症法で2類感染症に分類される重篤な新興ウイルス感染症である。SARS の感染源は、当初、野生動物のハクビシンであると考えられていたが、近年SARSコロナウイルス(SARS-CoV)に似たウイルス遺伝子がキクガシラコウモリから検出されたことから、キクガシラコウモリあるいは、近縁なコウモリがSARS-CoV の自然宿主の候補として注目されている。一方、SARS-CoV のレセプターであるACE2 のアミノ酸配列は動物種により多様であり、このことが各動物種のウイルス感受性を規定する要因の一つとなっている。本研究では、コウモリのSARS-CoV 感受性を明らかにすることを目的として、数種類のコウモリからACE2 をクローニングし、これらのACE2 発現細胞を用いてSARS-CoVの感染性を解析した。
 
【材料と方法】
  キクガシラコウモリ科のキクガシラコウモリの腎由来細胞株BKT1よりRNA を抽出し、RT-PCR によりキクガシラコウモリACE2 cDNA を得た。また、オオコウモリ科のデマレルーセットオオコウモリ腎組織から、同様にオオコウモリACE2 cDNA を得た。それぞれのcDNA及びこれらに変異を導入したcDNA を発現ベクターにクローニングし、BHK細胞に導入してACE2発現細胞を作製した。SARS-CoV S 蛋白質でシュードタイプさせた増殖欠損型VSV (VSV-SARS) を、これらのACE2発現細胞に感染させ、レポーター遺伝子の発現を指標にSARS-CoVの感染性を比較した。
 
【結果】
  キクガシラコウモリACE2 発現細胞ではVSV-SARS の感染は認められなかった。一方、オオコウモリACE2発現細胞ではVSV-SARS の感染が認められ、感染効率はヒトACE2 発現細胞と同等であった。キクガシラコウモリACE2 の一部のアミノ酸配列をヒト、あるいはオオコウモリACE2のアミノ酸配列に置換するとVSV-SARS の感染が認められた。
 
【考察】
 キクガシラコウモリACE2 はレセプターとして機能しないことから、キクガシラコウモリにはSARS-CoV は感染し難いと考えられた。一方、デマレルーセットオオコウモリからSARS-CoV 抗体が検出されていること、ACE2 がレセプター機能を有することから、オオコウモリ類がSARS-CoV に高い感受性を有することが示唆された。
 
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