第6回 人と動物の共通感染症研究会学術集会 研究会目次


 
5 ペットショップの不適切な対応により飼い主の重症皮膚疾患の原因となったネコの1例
 
○兼島 孝 1),佐野文子 2)
1)みずほ台動物病院
2)千葉大学真菌医学研究センター
 
【はじめに】
  平成16年度新興・再興感染症研究事業の「国内の患者症例報告に基づく動物由来感染症の実態把握および今後の患者症例報告収集と検索システムの開発に関する研究」(高山班)によると、人医において感染症を診る機会の多い小児科、皮膚科、内科で共通感染症の経験は全体の25%で、特に皮膚科の医師では52%に経験があると報告されている。しかし、動物飼育歴に関する問診は十分とはいえない。さらに、飼い主が共通感染症に対して意識が向いていないと十分な情報が伝わらない。今回、皮膚疾患を伴ったにもかかわらず、初動で共通感染症でないと指導され、ヒトの症状が悪化したケースに遭遇したので報告する。
 
症例: アビシニアン オス 8ヵ月齢 3.7kgBW
主訴: 安楽死
経過: 女児へのクリスマスプレゼントとして仔猫を搬入した。購入時(3ヵ月齢)に仔猫の額に円形の脱毛皮膚病変があり、ペットショップ併設動物病院にて真菌症と診断され軟膏を処方されていた。しかし、ペットショップ店員に『ヒトに感染性ない』と指導された。飼育2ヵ月後(5ヵ月齢)には発毛し仔猫の皮膚病変は完治したように見えた。飼育3ヵ月頃より女児の頭部に発赤皮膚病変が出現し、加療するも脱毛部が拡大し飼育5ヵ月目に更に悪化した(ケルスス禿瘡)。その間、数件目の皮膚科にて動物由来感染症(皮膚糸状菌症)と診断された。
検査: 初日
治療3ヵ月後
休薬3ヵ月後 
Microsporum canis(+)
Microsporum canis(−)
Microsporum canis(−)
治療: itraconazole 5mg/kg BID 3ヵ月間
  
【まとめ】
  皮膚糸状菌症は皮膚科・獣医科領域で多く遭遇する共通感染症である。診断は鏡検や培養で比較的簡単に行える。女性や学童は小動物と直に接することが多く、皮膚糸状菌症に感染する機会が多い。一般的には適切な指導と治療により、悪化することなく治癒する。しかし、飼い主や医師に共通感染症の意識が向いていないと適切な治療が遅れることがある。さらに、ペットショップなどが不適切な助言を与えることで状況は悪転する。平成18年6月に施行された動物愛護管理法でも飼い主等は動物による感染症について正しい知識を持ち感染症予防のために必要な注意を払うことと義務付けられている。今後は関連機関への指導や飼い主教育を徹底して、意識改革を行いたい。
 
←前のページ次のページ→

研究会目次
カウンター