第6回 人と動物の共通感染症研究会学術集会 研究会目次


6 スズメ(Passer montanus)のSalmonella Typhimurium感染症
 
○宇根有美 1),三部あすか 1),鈴木 智 2),仁和岳史 2),川上和人 3),加藤行男 2)
1)麻布大学獣医学部病理学研究室
2)麻布大学獣医学部公衆衛生学研究室
3)森林総合研究所
 
  北海道で、2005年12月頃よりスズメの死体が、頻繁に観察されるようになり、その数は、2006年7月28日現在1,517羽に達し、旭川市を中心に6支庁と広域で確認されている(道庁公表)。これらの検体について諸機関で調査が実施されているが、いまだ原因は解明されていない。今回、登別市で発見されたスズメを病理学的・細菌学的に検索したので、その概要を報告する。
 
【材料と方法】
  2006年4月14日登別市で発見されたスズメの斃死体2羽。発見時、すでに腐敗が進行しており、直ちに冷凍保存された。解凍後、病理解剖後、病理組織学的検査用に全身諸臓器を採材し、微生物学的検査用として、そ嚢、肝臓、腸を無菌的に採材し、一般細菌検査と定法に従ってSalmonellaの分離を行うとともに、Salmonellaと同定された株については、血清型を決定した。なお、登別市でもスズメの個体数の激減が指摘されている。
 
【結果】
  2羽ともに同様の肉眼像を示した。腐敗のため、内臓諸器官の観察は不十分であったが、2羽に共通して、そ嚢壁のび漫性肥厚が顕著で、壁厚は1mmに達し、粘膜は粗造で、内腔に黄白色、粟粒大の物質を含んでいた。軽度の胸筋萎縮があり、1羽に腹膜炎様の変化があった。組織学的には細菌性そ嚢炎が特徴的で、組織中にグラム陰性桿菌の集落がみられた。これらの細菌はSalmonella O4型診断血清を用いた免疫染色で陽性となった。直接培養ではSalmonellaは検出されなかったが、増菌培養によって、No.1(そ嚢、肝)、No.2(そ嚢と腸)からSalmonellaが分離され、Salmonella Typhimurium(以下STと略す)と同定された。
 
【まとめ】
  欧米およびニュージーランドでは、フィンチなどの野鳥(主としてスズメ)のSTによる大量死が多数報告されており、この種の鳥の個体数の激減の原因として注目されている。フィンチ類のST感染症では、肝腫、脾腫と白色結節形成が頻繁に観察され、特徴的所見としてそ嚢炎があげられており、今回の2羽にもそ嚢炎が認められた。このため、細菌学的検査結果と併せて、ST感染症と診断した。北海道の各地で報告されているスズメの大量死と今回見出されたST感染症とが、どのような関連があるのか、検体数が少ないので現在のところ判断できないが、斃死例の中にはST感染症が含まれていることを念頭に今後調査する必要がある。ニュージーランドでは、スズメの集団死と時期同じくして、ヒトのST感染症の集団発生があり、その感染源としてスズメが考えられている。また、アヒルやウズラでも、スズメに起因するSTによる致死例が発生し、産業動物への伝播が危惧されている。
  スズメの行動圏は季節により異なり、なわばりを持つ成鳥では約200mと狭いが、秋になると若鳥は集団をなし、近隣でなわばりをもてなかった場合、数10km、ある報告では100-400kmを移動するとされている。このため、登別市のみの少数の発生であっても、鳥の拡散と相まって、STも拡散する可能性が極めて高く、公衆衛生上、動物衛生上及び種の保全も含めて十分な警戒が必要である。
 
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