第3回 人と動物の共通感染症研究会学術集会 研究会目次


8 飼育下のサルに発生した Yersinia enterocolitica O8 感染症
 
 ○岩田剛敏 1)、宇根有美 2)、Okatani Alexandre Tomomitsu1 2)金子誠一 3)、生井聡 3)、
吉田信一郎 4)、堀坂知子 1)、堀北哲也 1)、中臺文 1)、林谷秀樹 1)
1) 農工大、2) 麻布大、3) 東武動物公園、4) 日本食品分析センタ−
 
【はじめに】
  リスザルなどの新世界ザルは、仮性結核菌として知られる Y. pseudotuberculosis に対する感受性が高く、毎年、多くのサル飼育施設において本菌による集団感染が発生し、多数の個体が死亡して飼育上の重要な問題の 1つとなっている。一方、サルの Y. enterocolitica 感染例の報告は少なく、我が国では全く報告されていない。今回、Y. enterocolitica うちで最も強毒な血清型 O8(以下、O8菌)によるサルの集団感染例を世界で初めて確認し、その疫学調査を実施したのでその概要を報告する。
 
【発生状況】
  2002年 12月〜 2003年 1月にコモンリスザル(Saimiri sciureus) 約 50頭を飼育する国内某施設で 5頭が下痢を発症した後死亡した。この群の下痢は抗生物質投与で収まったが、その後、2003年 4月になり同施設で飼育されているアジルテナガザル(Hylobates agilis)1頭が下痢症状を呈した後死亡した。
 
【材料と方法】
  死亡したコモンリスザル 3頭とアジルテナガザル 1頭の諸臓器、同施設で飼育されているコモンリスザル 45頭および他のサル 18種 20検体の糞便、サル飼育舎周辺で捕獲したクマネズミ 33頭の糞便および環境材料を採取して培養材料とし、定法により Y.enterocolitica の分離を行った。分離された O8菌は、パルスフィールドゲル電気泳動法(PFGE)、リボタイピング法およびプラスミド DNAの制限酵素切断解析(REAP)により分子遺伝型別を行い、分離菌株間の疫学的関連性を検討した。
 
【結果】
1.   死亡したコモンリスザルならびにアジルテナガザルでは腸炎と肝、脾などには粟粒大〜小豆大の膿瘍が観察され、O8菌が分離された。
2.   飼育されているリスザル 17頭( 37.8%)、サル 4種 4検体( 20.0%)およびクマネズミ 5頭( 15.2%)の糞便から O8菌が分離された。
3.   分離された O8菌 30株中 29株の PFGEパターン、リボパターンおよびREAPパターンは全て同一であり、これらは新潟県のノネズミから分離された菌株と遺伝型が近似していた。
4.   これらのことから、O8菌は最初になんらかの感染源からコモンリスザルに侵入した後、クマネズミを介して同施設内の他の飼育動物に広がった可能性が高いものと推察された。
 
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