第3回 人と動物の共通感染症研究会学術集会 研究会目次


7 ライム病の存在が予期されなかった沖縄で見出された
ライム病関連ボレリアの性状
 
 ○増澤俊幸 1)、角坂照貴 2)、小泉信夫 3)、川端寛樹 3)、中村正治 4)、平良勝也 4)、今井康之 1)
1)静岡県立大学・薬学部・微生物学、
2)愛知医科大学・寄生虫学、3)国立感染症研究所・細菌第一部、4)沖縄県衛生研究所
 
【目的】
  ライム病(ライムボレリア症)は 1982年に病原体が発見された新興感染症である。ライム病ボレリアは Ixodes 属マダニを媒介動物、野生げっ歯類、小型鳥類を保有体とし、北半球に幅広く分布する。欧米諸国では年間数万人の患者が発生していると見積もられている。ライム病関連ボレリアはこれまでに 11種に分類され、マダニ種とボレリア種間の適合性(Vector competence)が見られることが明らかとなってきた。これまでしられるライム病ボレリアは比較的寒冷地に棲息するマダニ種により媒介されるとする先入観から、沖縄におけるライム病調査はほとんどなされていなかった。一方で、我々は中国の揚子江流域、台湾、タイ、ネパール、韓国南部でミナミネズミマダニ Ixodes granulatus、またはタネガタマダニを媒介者とすると思われるライム病関連ボレリアを見出した。このボレリアは各種遺伝子のシークエンス解析結果より欧州の Borrelia valaisiana に近縁であった。台湾と地理的、気候的にも近い沖縄で野鼠からのボレリアの分離とその株の性状解析を行った。
 
【材料と方法】
  2000年 10月、および 2001年 11月に沖縄県で調査を行った。野鼠耳介と膀胱を BSKII 培地で培養した。分離株は 5S-23S rRNA intergenic spacer、鞭毛遺伝子、16 SrRNA遺伝子配列解析により、同定を行った。
 
【結果と考察】
  2000年の調査では野鼠 65匹から 8株(分離率 12%)、2001年の調査では 152匹から 8株( 5%)を分離した。保有体はSuncus murinusMus caroliRattus norvegicus であった。野鼠咬着 I. granulatus 2個体よりボレリアの分離に成功した。これらの株の intergenic spacer 配列は欧州由来 B.valaisiana VS116 株と 92%以上、東南アジア由来の B.valaisiana 関連群ボレリアとも 95%以上の高い相同性を示した。一方、16 SrRNA遺伝子配列は B. valaisiana 関連群内でも多様性がみられ低いものでは 97%程度の相同性値しか示さない株もみられた。このことはこのボレリア群が B. garinii のように多様性に富む種である可能性を示唆している。DNA-DNA 相同性試験を実施し分類学的位置を明確にしたい。
 
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