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第3回 人と動物の共通感染症研究会学術集会
 
10 本邦におけるイヌのヒストプラスマ症の疫学
 
 ○ 佐野文子(千葉大学真菌医学研究センター)村田佳輝(むらた動物病院),
  上田八千代(上田動物病院),猪股智夫(麻布大学・獣医学部),
  亀井克彦(千葉大・真菌センター),西村和子(千葉大・真菌センター)
 
  ヒストプラスマ症は危険度レベル3の真菌を原因菌とする。我が国では輸入症例と土着症例が混在する。肺と皮膚を侵入門戸とし,細胞性免疫不全患者に発症した場合,肺感染から全身感染に至る。細胞内寄生性のため,治療が難しく重篤である。本症は世界中の熱帯,亜熱帯,温帯地域に分布し,特に大河の流域が流行地である。3種類の原因菌があり,Histoplasma capsulatum var. capsulatum によるカプスラーツム型,var. duboisii によるズボアジ型,var. farciminosum(またはH. farciminosum) によるファルシミノーズム型ヒストプラスマ症に分けられている。特にファルシミノーズム型はウマ,ロバ等四足獣の病気で,仮性皮疽,流行性リンパ管炎やウマカサなどの別名がある。本邦も戦前は流行地で,2万頭以上のウマ症例が記録されている。

  戦後,本邦におけるヒストプラスマ症はヒト 38例,イヌ 5例,ウマ 1例,ラッコ 1例が報告されている。ヒト5症例およびの全動物症例は流行地への渡航歴,輸入歴を持たない。なかでもヒトの 1症例は臨床症状が皮膚病変のみで,分離菌の遺伝子も var. farciminosum と同定されたことから,ファルシミノーズム型が人獣共通に発症していることが裏付けられている。さらに,イヌのヒストプラスマ症全例も潰瘍と肉芽腫性病巣を伴った粘膜・皮膚病変である。本症の確定診断は原因菌の分離同定によってなされるべきであるが,イヌ4例について培養を試みたものの生菌は得られていない。ヒトでも同様に原因菌は難培養性である。そこでイヌ症例 5例中 4例は病理組織所見とそこから抽出された原因菌のリボゾーム RNA遺伝子の ITS領域の相同性解析により,95%以上であればヒストプラスマ症と診断してきた。特に最近診断された症例は,悪性腫瘍の転移による皮膚潰瘍から感染したと考えられ,病理組織からは 99%以上の相同性をもって一致する同領域の遺伝子2型が検出されている。しかし,ITS領域は変異も多く,ヒストプラスマ症と診断することは可能であっても,遺伝子型から原因菌のバラエティーを特定することは難しい。ヒストプラスマ症の感染要因はイヌの場合,去勢手術,毛庖虫の寄生,悪性腫瘍転移による皮膚潰瘍など,皮膚からの易侵入性が挙げられる。
 
  <連絡先>電話:043-226-2786
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