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第3回 人と動物の共通感染症研究会学術集会
 
3 北海道内の肝機能検査異常献血者におけるE型肝炎ウイルス(HEV)感染調査
 
 坂田 秀勝、松林 圭二、佐藤 進一郎、加藤 俊明、池田 久實
北海道赤十字血液センター
 
【目的】
  昨年、我々は輸血用血液によって伝播したと考えられた本邦初のE型急性肝炎症例を経験した。また、数年前から北海道内の幾つかの医療機関より散発的なE型急性肝炎症例の報告があり、北海道におけるE型肝炎ウイルス(HEV)感染率は、日本国内では比較的高い可能性が考えられている。HEVの感染宿主となりうる動物は多種にわたっており、 最近日本のブタについて行われた調査ではその一部に、E型急性肝炎患者から検出されたHEVと高い相同性を持ったHEV遺伝子が検出されている。さらに、最近シカの生肝を食して発症した急性E型肝炎症例が報告され、本疾患が人獣共通感染症であることが明らかになってきた。今回、急性肝炎症状が疑われた肝機能異常献血者を対象に北海道内のHEV感染状況について調査を行ったので報告する。
 
【材料及び方法】
  2000年4月から 2003年 8月までの期間に北海道で献血された献血者検体 1,188,443例中、肝機能検査でALT値 500 IU/L以上を示した 63例(男 45例、女 18例)について、Real-time RT-PCR法によりHEV RNAの検査を実施した。さらにHEV RNA陽性となった検体について、HEV遺伝子のORF1領域 326塩基とORF2領域 412塩基の遺伝子解析およびIgM, IgG抗体検査を行った。
 
【結果】
  A, B, C型肝炎ウイルスの感染例を除外した肝機能異常検体 44例中HEV RNA陽性のものが 9例(genotype IIIが 6例、genotype IV が 3例)検出され、HEV RNA陽性者は北海道内各地に散在していた。9例中 8例はHEV IgM抗体陽性であった。また、遺伝子解析の結果、それらはお互いに相同性が高く、北海道内で発生したE型急性肝炎患者より分離された株とも近似していたことから、北海道に土着のHEV株である可能性が示唆された。さらに一部には北海道内のブタから検出されたHEV株と相同性の高い株も認められた。
 
【考察】
  北海道における肝機能異常(ALT値 500 IU/L以上)献血者のHEV感染率は高い可能性が示唆された。また、献血者から検出されたHEVは北海道内のブタから検出されたHEV株と相同性の高い株が存在し、ブタがHEV感染のリザーバーの1つである可能性も示唆された。今後、感染防止対策を講じる上で感染ルートを含む詳細な実態調査が必要と考えられる。
 
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