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第3回 人と動物の共通感染症研究会学術集会
 
2 近年の日本脳炎患者発生状況および感染リスク
 
 ○新井 智 1), 高崎智彦 2), 多屋馨子 1),早川丘芳 1),倉根一郎 2),
岡部信彦 1), 感染症流行予測調査事業担当者.
1)国立感染症研究所感染症情報センター, 2)同ウイルス一部
 
【目的】
  近年、日本脳炎患者報告数は減少し稀となってきた。しかしながら、我々が感染症流行予測調査事業の結果を解析したところ、現在でも日本脳炎ウイルス自然感染例がかなりの割合存在する結果を得ている。そこで、これまでの日本脳炎患者発生状況、ブタの日本脳炎ウイルス抗体保有状況、ヒトの中和抗体保有状況を総合的に解析し、現在の日本脳炎ウイルス浸淫状況を把握することを目的とした。
 
【対象と方法】
  日本脳炎患者情報は、1982年から 1999年 3月までは日本脳炎患者個人票を、1999年 4月から 2003年( 9月末現在)までは感染症発生動向調査結果を基にした。ブタの日本脳炎ウイルス抗体保有調査及びヒトの中和抗体保有調査は、感染症流行予測調査事業の結果を基にした。ブタの日本脳炎ウイルスHI抗体保有調査および、ヒトの日本脳炎中和抗体価について各都道府県衛生研究所で測定した。
 
【結果】
  1982年から 2003年 9月末までに日本脳炎患者として確認又は報告された患者数は、355名(男性 182名、女性 173名)であった。1982年から 1990年には小児と高齢者に患者発生の多い年齢層があり、1991年以降では高齢者に患者発生の多い年齢層が認められた。地域別では、九州地方が最も多く全体の約 45%であった。ブタの日本脳炎ウイルスHI抗体保有調査では、1972年から 2003年まで毎年夏季に抗体保有率が上昇していた。ヒトにおける抗体保有調査の結果から、ワクチン未接種者においても日本脳炎ウイルス中和抗体の上昇が確認された。
 
【考察】
  近年の患者発生数は、10名以下と非常に少ない数で推移している。しかしながら、今回得られた疫学情報は、現在もなお日本脳炎ウイルス感染リスクが存在し、ワクチン接種を受けていない場合、日本脳炎ウイルスに感染し発症する危険性が高いことを示していた。今後、原因不明脳炎患者の鑑別診断に日本脳炎を加えているかのアンケート調査や、ブタの間で流行しているウイルス自体の病原性(中枢神経親和性)が低下しているのかなど更に詳細な解析が必要である。
 
【結論】
  ブタとコガタアカイエカの間では、現在もなお日本脳炎ウイルスが維持されており、日本脳炎ウイルスに感染するリスクは現在も存在することが明らかになった。今後、患者報告数の少ない理由を更に解析する必要がある。
 
  本研究は、農林水産統計、日本脳炎患者個人票集計結果、発生動向調査、および感染症流行予測調査報告書の結果を用いて実施した。
 
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