第10回 人と動物の共通感染症研究会学術集会 研究会目次

P-6 A 群ロタウイルスの感染環における野生動物の関与
 
○安部昌子1)、山崎有里2)、伊藤直人1,2)、溝口俊夫3)、加藤千晴4)、淺野玄5)、岡野司5)、杉山誠1,2)
1) 岐阜大学大学院連合獣医学研究科、2) 岐阜大学応用生物科学部人獣共通感染症学研究室
3) 福島県鳥獣保護センター、4) 神奈川県自然環境保全センター、
5) 岐阜大学応用生物科学部野生動物医学研究室
  
【背景と目的】
  A 群ロタウイルス(ARV)は乳幼児や幼若動物に急性胃腸炎を引き起こす。本ウイルスは鳥類及びヒトを含めた多くの哺乳類に幅広く分布しており、動物種を越えて感染を起こす人獣共通感染症の病原体としての可能性も指摘されている。一方で、野生動物における本ウイルスの感染状況はわかっておらず、自然界におけるARV の感染環は不明である。そこで本研究では、野生動物を対象としてARV の検出を試み、ARV の感染環における野生動物の関与について検討した。
 
【材料と方法】
  2003 年から2008 年にかけて、秋田県、福島県、神奈川県、富山県、岐阜県及び京都府において捕獲された様々な野生動物の糞便あるいは腸内容物145 例を用いた。採取した糞便あるいは腸内容物の20%PBS 懸濁液を作製し、その遠心上清からRT-semi-nested PCR によりARV-VP7 及びVP4遺伝子の検出を行った。陽性例については、両遺伝子の蛋白コード領域(ORF)全長をPCR 及びダイレクトシーケンス法を用いて解読し、G 及びP 遺伝子型の同定及び分子生物学的解析を行った。
 
【結果と考察】
  2004 年に神奈川県で捕獲されたタヌキ1 例及び2005 年に福島県で捕獲されたハクビシン1 例から、ARV のVP4 及びVP7 遺伝子が検出された。解析の結果、タヌキ及びハクビシンから検出されたARV は、ヒトの間で広く流行しておりネコからの検出報告もあるARV と同じVP7 遺伝子型G3b 及びVP4 遺伝子型P[9](G3bP[9])に属することが明らかとなった。このG3bP[9]遺伝子型ARV は、人獣共通感染症の病原体となる可能性が指摘されているものである。今回の結果から、愛玩動物を含め人間社会に定着しているARV の感染環に野生動物が関与している可能性が示された。ARV が検出されたタヌキ及びハクビシンはいずれも市街地で捕獲されていることから、以上の結果は、野生動物がARV のヒトへの媒介動物となるリスクを示唆している。
 
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