第10回 人と動物の共通感染症研究会学術集会 研究会目次

P-7 わが国のアライグマにおけるToxoplasma gondii 抗体保有状況について
 
○佐藤真伍1)、壁谷英則1)、牧野 敬2)、鈴木和男3)、淺野 玄4)、井上 智5)、泉對 博6)、野上貞雄7)、丸山総一1)
1)日本大学獣医公衆衛生学研究室、2)神奈川県自然環境保全センター
3)ふるさと自然公園センター、4) 岐阜大学野生動物医学研究室、5) 国立感染症研究所獣医科学部
6)日本大学獣医伝染病学研究室、7) 日本大学医動物学研究室 
  
【はじめに】
  近年、特定外来生物に指定されたアライグマ(Procyon lotor )が各地で繁殖し、農作物や住宅への侵入等の被害が社会問題化している。アライグマが各種人獣共通感染症を媒介し、ヒトへの感染源になることも懸念されている。Toxoplasma gondii (T. g)は猫を終宿主とする細胞内寄生原虫で、アライグマを始め、種々の動物がその中間宿主となりうることが知られている。わが国のアライグマのT. g 感染状況に関して、一地域において調査した報告は有るものの、広範な地域で調査した報告はない。そこで、本研究ではわが国の3 地域で捕獲されたアライグマのT. g 感染状況を血清学的に調査、検討した。
 
【材料および方法】
  材料は2000〜2002 年および2008〜2009 年にわが国の北海道(北部地域)、神奈川県および千葉県(東部地域)、和歌山県(西部地域)で捕獲されたアライグマの血清929(雄436、雌493)検体を用いた。各地域の検体数は、北部492 検体、東部285 検体、西部152 検体であった。抗T. g 抗体は、市販のラテックス凝集試験キット(栄研)で、抗体価64 倍以上を示したものを陽性とした。
 
【結果】
  アライグマ血清929 検体のうち、92 検体 (9.9%)がT. g 陽性を示した。雌雄別のT. g 陽性率は、雄8.9%、雌10.8%と有意差は認められなかった。また、北部、東部、西部地域のT. g 陽性率はそれぞれ7.9%(39/492 検体)、16.4%(47/285 検体)、3.9%(6/152 検体)で、東部地域の陽性率は他の2 地域と比べ、有意に高かった(P < 0.001)。体重別の陽性率は0 <〜< 2kg の6.4% (7/110検体)、2kg <〜< 4kg の4.1% (9/220 検体)、4kg <〜< 6kg の9.0% (30/333 検体)、6kg <〜< 8kgの16.0% (38/237 検体)、8kg <〜< 10kg (8/29 検体)の27.6% で、体重の増加と共に陽性率の上昇が認められた(P < 0.05, rs= 0.9)。
 
【成績】
  わが国のアライグマのT. g 陽性率(9.9%)は、われわれが1994〜1999 年に調査した飼育猫のT. g 陽性率(5.4%)に比べ、有意に高かった(P < 0.001)。その理由として、人家周辺に生息する雑食性のアライグマは、種々の感染源からT. g に暴露される機会が多いためと思われた。また、東部地域のアライグマのT. g 陽性率が高かった理由として、アライグマの生息密度の高さやT. gに感染した野猫と生息域が重複しているためと推察された。さらに、アライグマの体重の増加とT. g 陽性率の相関は、加齢に伴う陽性率の上昇を反映しているものと思われた。以上から、アライグマのT. g 陽性率は、ヒトの生活環境周辺のT. g 汚染を反映しており、その指標として有用な動物であると考えられた。
 
←前のページ

研究会目次
カウンター