第10回 人と動物の共通感染症研究会学術集会 研究会目次

教育・特別講演8-2 Capnocytophaga 感染症を含むイヌ・ネコ咬傷時の対応
 
細川 直登
亀田総合病院 総合診療・感染症科
 
【Pasteurella とCapnocytophaga】
  イヌに咬まれた傷の3‐18%が感染を起こすと言われ、引き続いて髄膜炎、心内膜炎、化膿性関節炎、敗血症性ショックを起こすことがあるとされています。微生物学的にはPasteurella 属が最も多く、それに続いて、Streptococcus(連鎖球菌)、Staphylococcus(ブドウ球菌)などが多く報告されています。数は少ないもののCapnocytophaga という菌が重症の敗血症をきたすことで知られています。
  Pasteurella は犬やネコの口腔内常在菌で、犬、ネコの12‐87%から分離されます。国立感染症研究所研究年報では犬の保有率は28%であったと報告されています。中でもPasteurella multocidaが病原菌としては重要とされます。グラム染色では小さな陰性桿菌として観察され時に球菌のように見える多形性を示し、形態的にはHaemophilus に類似します。検査室でも注意していないと雑菌として見落とす可能性があり、犬、ネコによる咬傷の場合は培養提出時に検査室にその旨を伝えると検出率を上げる可能性があります。犬咬傷による感染症の約50%から分離されます。
  Capnocytophaga は主に犬の口腔内常在菌で、グラム染色では比較的小型で両端のとがった紡錘形の形態を示します。臨床的にはCapnocytophaga canimorsus が最も重要です。国立感染症研究所
年報によると犬の保有率は96%であったと報告されています。犬咬傷の2%から分離され、頻度は少ないものの敗血症を起こすと劇的な経過をとり、死亡率は30‐36%にのぼるとされるので注意が必要です。培養に時間がかかり、検出が難しいことが多いので犬咬傷の病歴がある場合は検査室にCapnocytophaga をねらっていることと、血液培養期間の延長を依頼すると良いと思われます。
 
【犬咬傷による敗血症のマネジメント】
  重症の場合はショック状態で救急外来を受診します。リスクファクターとしては脾臓がない、アルコール依存症があげられます。犬咬傷では受傷部位として最も多いのは手(手関節より先)で約50%を占めます。次が下肢と頭頚部で16%、その次が上肢で12%を占めます。ショック状態ではなくとも犬咬傷を主訴に受診した際は、肉眼的に創感染がある場合や発熱を伴う場合は必ず血液培養を2 セット採取します。時に重症化して死に至るものとしてPasteurella とCapnocytophaga を念頭に置くことが重要です。
 
【治療】
  対象とする菌はPasteurella、Capnocytophaga、Staphylococcus、Streptococcus と、Bacteroidesを含む嫌気性菌を必ず含めます。Pasteurella は第1 世代セフェムが効かないことに注意が必要です。Pasteurella とCapnocytophaga はどちらもペニシリンが有効です。嫌気性菌はβ ラクタマーゼを産生するためこれらを全てカバーするにはβ ラクタマーゼ阻害剤配合のペニシリン系薬剤が適応となります。
  ショック状態で命の危険が迫っている場合は、PIPC/TZ またはカルバペネムを使用し、MRSA のリスクがある場合はVCM を追加します。比較的落ち着いた状態の時はABPC/SBT が良い適応となります。
  血液培養で菌が確定し、Pasteurella またはCapnocytophaga であったでも、創感染があれば嫌気性菌の混合感染が多いため、ABPC/SBT を使用すると良いと思われます。
 外傷によく使われる第1 世代セフェムは使えません。
 
【予防について】
  犬咬傷では抗菌薬の予防投与がその後の感染症を減少させます。受傷後次のような場合には予防投与が適応となります。
深い貫通性の傷・中程度の挫滅創・静脈、リンパ管叢のある場所・手の傷、骨や関節に近接した傷(特に手関節や人工関節のそば)
外科的修復が必要な傷・免疫抑制者の傷
  予防投与にはAMPC/CVA を用います。アモキシシリンクラブラン酸の250/125mg 製剤を1 日3回に加えアモキシシリンを250mg1 日3 回同時に服用します。
 
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