第9回 人と動物の共通感染症研究会学術集会 研究会目次

8 2008年沖縄県本島におけるレプトスピラ症の実地疫学調査
 
○土橋酉紀1)、田中好太郎1)、島田智恵2)、砂川富正2)、 小泉信夫3)、谷口清州2)、岡部信彦2)
1) 国立感染症研究所実地疫学専門家養成コース、2) 国立感染症研究所感染症情報センター
3) 国立感染症研究所細菌第1部
 
【背景】
  2008年8月から9月にかけて沖縄県本島より合計20症例のレプトスピラ症が報告され、うち1例は心筋炎によるショック症状を呈していた。報告の大部分の症例で本島北部河川での感染が疑われており、集団発生の可能性があると判断された。同県の依頼により集団発生の確認、本事例の全体像の把握、感染危険因子の特定と再発防止を目的に実地疫学専門家養成コース(FETP)による調査を開始した。
 
【方法】
  記述疫学と解析疫学を実施した。(1)本島北部河川でのレジャーが集団発生に関連、(2)川での行動様式・服装・天候が集団発生に関連、という2つの仮説について症例対照研究を用いて分析した。報告された20症例のうち直接聞き取りのできた8例を症例とした。仮説(1)検討のため、症例の同居者15名を対照とした。また仮説(2)については本島北部河川でのレジャー歴のある症例の同居者5名と自然サークル員13名を対照とした。対照における複数のレジャー歴は各独立としてカウントした。また、衛生環境研究所・家畜保健衛生所・家畜衛生試験所・保健所から保菌動物についての情報の聞き取りを行った。
 
【結果】
  集団発生は2008年8月から9月に発生し、発症前1ヶ月間の本島北部河川でのレジャー歴とレプトスピラ症発症が関連していた(P=0.007)。河辺及び水中で半ズボンや水着の使用(OR=15.00、95%CI=1.42-376.61)と裸足やサンダル(P=0.007)が同症発症と関連していた。気象庁等データより、レジャー前24時間の時間雨量が3mm/h以上(OR=7.92、 95%CI=1.26-54.98)、10mm/h 以上(OR=75.0、 95%CI=5.18-2475.12)で発症に関連を認めた。レジャー実施者の当日または前日が雨であったという記憶と発症にも関連を認めた(OR=6.17、95%CI=1.02-40.80)。特定の行動様式と発症との関連は指摘できなかった。また、聞き取り調査より保菌動物の一つであるマングースが北上している可能性が指摘された。
 
【考察】
  レジャーの際、河辺及び水中での露出の多い服装や24時間以内の雨がレプトスピラ症発症と関連していた。特に24時間以内に10mm/h以上のやや強い雨があった場合にはレジャーに注意が必要であることが示唆された。また、レジャー実施者自身による当日の天候を見てのレジャーの可否の判断も感染予防につながる有用な判断材料の一つになることが示唆された。沖縄県で保菌動物の一つとされているマングース北上の可能性があることより、今後、河川周囲の保菌動物の生息状況などを把握していくことも沖縄県におけるレプトスピラ症疫学の理解に重要であると考える。
 
【謝辞】
  ご協力いただいた沖縄県庁:糸数公先生、沖縄県衛生環境研究所:岡野祥先生・平良勝也先生・中村正治先生、沖縄県北部福祉保健所:国吉秀樹先生、家畜保健衛生所、家畜衛生試験所の皆様、県立北部病院:星野慎一先生、那覇市立病院:知花なおみ先生をはじめ県内の複数の病院・各保健所、ネコのわくわく自然教室の皆様に厚く御礼申し上げます。
 
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