第8回 人と動物の共通感染症研究会学術集会 研究会目次

[教育講演3] ブルセラ症とは? ーヒト・家畜・イヌー
 
今岡 浩一 (国立感染症研究所 獣医科学部 第一室長)
 
  ブルセラ症(Brucellosis)はブルセラ属菌(genus Brucella) による人獣共通感染症です。ヒトに感染する主なものは病原性の順にB.melitensis (自然宿主:ヤギ、ヒツジ)、B.suis (ブタ)、B.abortus (ウシ)そしてB.canis (イヌ)があります。
 
  家畜のブルセラ病が流行している国々では、多くの感染者も報告され、世界的には重要な感染症のひとつです。中でも、西アジア、中東、地中海沿岸、アフリカ、中南米、カリブ海諸国などに多く、年間50万例におよぶ患者が報告されています。ただ、症状が軽いときは「原因不明熱」とされているケースもあり、実際の患者数は報告の10?25倍以上と推定されています。
 
  今回の講演では、ヒト、家畜、イヌそれぞれのブルセラ症について、疫学、感染経路、症状、検査・治療法についてお話しする予定です。
以下に、国内の発生状況とブルセラ症の法律上の取扱について簡単にお知らせしておきます。
 
国内の発生状況
1)ヒトブルセラ症:
全数把握になった1999年4月1日から2008年7月31日までに、11例が届出られていますが、このうち10例は2005年からです。内訳はB. melitensis が3例、B. abortus が2例、B. canis が6例です。B. melitensis およびB. abortus の推定感染地域はいずれも海外ですが、B. canis は国内感染と考えられ、うち3例で推定感染経路としてイヌが届出られています。
 
2)家畜ブルセラ病(B.melitensisB.suisB.abortus):
B. abortus は過去にウシで流行しましたが、家畜伝染病予防法に基づく徹底した対策(摘発・淘汰)により、現在では清浄化しています。B. melitensis の発生報告はないようです。B.suis も1940年を最後に発生はありません。
 
3)イヌブルセラ病(B. canis):
1971年に繁殖コロニーで最初に報告されました。輸入ビーグル犬によると考えられています。血清学的調査では、現在も市中のイヌの2〜5%が感染歴を持つと考えられています。流産の多発が見られるイヌ繁殖場では、イヌブルセラ病の感染が確認されることがあります。最近では、静岡(2003年)、大阪(2006年)のイヌ繁殖場での大規模な感染・流行が知られています。
 
ブルセラ症及びその病原体の法律上の取扱い
1)感染症法(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律)
  感染症法及び施行令(法第六条第五項、政令第一条)によりブルセラ症は四類感染症に指定されている。ゆえに、診断した医師は届出基準に基づいて、最寄りの保健所長を経由して都道府県知事に届け出なければならない(法第十二条)。
感染症法及び施行令(法第六条第二十一項、政令第二条)により、Brucella melitensis, B. abortus, B. suis, B. canis が三種病原体に指定されている。よって、これらの所持には厚生労働大臣への届出が必要であり、また、取扱施設が三種病原体等取扱施設基準を満たしている必要がある(法第五十六条の十六及び二十四、省令第三十一条の十七及び二十九)。
病院や病原体等の検査を行っている機関が、業務に伴い三種病原体を所持することになり、滅菌譲渡をするまで所持することになった場合は届出は不要である(法第五十六条の十六)。ただし、定められた基準に従う必要がある(省令第三十一条の十八)。
 
2)家畜伝染病予防法
家畜伝染病予防法及び施行令(法第二条第一項、政令第一条)によりブルセラ病(対象動物:牛、めん羊、山羊、豚、水牛、しか、いのしし)は家畜伝染病に指定されている。
患畜または疑似患畜を発見したときは、診断した獣医師は、定められた事項(省令第二十二条)について都道府県知事に届け出なければならない(法第十三条第一項)。
都道府県知事は所有者に対して、当該家畜の殺処分を命ずることが出来る(法第十七条第一項)。
法第五条第一項の規定により、少なくとも五年ごとに省令別表第一の検査方法で、省令第九条第二項に規定された牛(搾乳牛、種雄牛、同居牛など)の検査をしなければならない(省令第九条第一項)。
   注:ブルセラ病のイヌは対象外である。
 
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