第5回 人と動物の共通感染症研究会学術集会 研究会目次


[教育講演] ご用心、ペットからの感染症 −ネコひっかき病を中心に−
 
吉田 博
公立八女総合病院
 
 近年、ペットから感染する病気が増加している。厚生労働省はその中で、ネコひっかき病、オウム病、パスツレラ症、トキソプラズマ症、サルモネラ症、イヌ・ネコ回虫症、皮膚糸状菌症などの7種類の病気に特に注意を呼びかけている。わが国では動物由来感染症に対する認識が薄く、医師が正確に診断できないことも少なくない。動物由来感染症は念頭にないと診断できない感染症診断のピットフォールである。
 
 最近10年間に当院で経験した動物由来感染症はネコひっかき病が93例で最も多く、次いで、パスツレラ症が8例、レプトスピラ症(ワイル病)、トキソプラズマ症、犬糸状虫症、クリプトコックス症、鼠咬症がそれぞれ1例であった。レピトスピラ症は死亡し、トキソプラズマ症は妊婦で、抗トキソプラズマIgM抗体で診断した。犬糸状虫症は摘出標本の病理組織で診断し、肺クリプトコックス症は血清のクリプトコックス抗原で診断した。
 
  ネコひっかき病(cat scratch disease:CSD)はネコのひっかき傷や咬傷が原因となり、受傷部位の所属リンパ節腫大や発熱を主徴とする感染症である。CSDの主たる病原体はBartonella henselae であるが、近年、Bartonella clarridgeiae もCSDの原因菌であることが判明した。日本の飼いネコの保菌率は7.2%であるが、東北や北海道のネコの保菌率は低く、西日本のネコの保菌率は高い。CSDの発生には季節性がみられ、7月〜12月に多い。気温が高くなる夏にネコノミの活動性が高まり、保菌ネコが増加するためと考えられている。CSDの典型例では受傷後数日〜2週間後に受傷部位の皮膚にやや隆起した赤紫色の丘疹を認め、膿疱や痂皮を形成することもある。これらの皮膚の変化はprimary dermal lesion と呼ばれ、CSDの38.8%にみられる。更に数日〜数週間後に受傷部位の所属リンパ節腫大がみられる。リンパ節腫大はCSDの92.5%の症例に認められるが、疼痛を伴うことが多く、表面の皮膚に発赤を伴うこともある。受傷からリンパ腫大までの潜伏期は5〜50日(平均17.6日)で、2〜3週間のことが多い。発熱は2/3の症例に認められ、38℃以上の高熱がみられるのはその約半数である。近年、B. henselae を抗原とした免疫蛍光抗体法(IFA)が開発され、本菌に対する血清抗体測定が可能になった。IgG型抗体は64倍以上を陽性とするが、ネコと接触歴がある健常人でも少数ながら抗体陽性(64〜256倍)がみられる。したがって、CSDにおけるB. henselae 感染を証明するには、単一血清では512倍以上の抗体上昇を、ペア血清では2管(4倍)以上の変動(上昇または低下)を確認する必要がある。CSDは軽い場合は自然に治癒するが、重症例では抗菌薬が有効である。抗菌薬投与で改善しない症例には注射針による膿汁の吸引がリンパ節の縮小や疼痛の緩和に有効である。リンパ節腫大の治癒には10日〜数ヶ月(平均41日)を要する。
 
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