第5回 人と動物の共通感染症研究会学術集会 研究会目次


11 法定検疫直後のペット用サル類の病原体保有状況
 
○中村進一 1),宇根有美 1),佐藤 宏 2),林谷秀樹 3),岩田剛敏 3),
古屋宏ニ 4),馬場智成 1),飯田奈都子 1),大田真莉子 1),西川香織 1),野村靖夫 1)
1)麻布大学獣医学部病理学研究室
2)弘前大学医学部寄生虫学講座
3)東京農工大学農学部家畜衛生学教室
4)国立感染症研究所寄生動物部
 
  2005年7月からの「感染症新法」(「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」)に基づくペット用サル類の輸入規制の前に、大量に輸入されたサル類を対象として公衆衛生上および動物衛生上のリスク評価を行い、その感染の実態を調査したので報告する。
 
【材料と方法】
  成田検疫所での法定検疫直後のリスザル(スリナム産)98頭(メス67頭、オス31頭)を対象として、全身状態の観察、寄生虫検査(血液:ミクロフィラリア、原虫、糞便:消化管内寄生虫、舌掻爬:美麗食道虫、被毛:外部寄生虫)、微生物検査(直腸スワブ:下痢性細菌、特にYersinia sp.とSalmonella sp.)を行った。あわせて、ELISAによるエルシニアおよびエンセファリトゾーンの血清抗体価を測定した。また、その後死亡したサル14頭を病性鑑定した。
 
【結果】
  皮膚病(脱毛、落屑)が高率56/98(57.1%)にみられた(少数のシラミ卵検出)。糞便検査(n=28)では、条虫3、鉤頭虫16、糞線虫11、鉤虫7、吸虫3の虫卵が検出された。血液検査ではミクロフィラリア23/82(28.0%)、トリパノソーマ39/82(47.6%)が確認された。美麗食道虫の感染はなく、下痢性細菌は分離されなかった。
 殆どの死亡例には削痩と飢餓性脂肪肝があり、鉤頭虫Prosthenorchis elegans による病変(腹膜炎、盲腸・結腸粘膜出血や穿孔、腸間膜リンパ節の膿瘍化)5/14(35.7%)、肺虫症Filaroides sp.10/14(71.4%)が観察された。
  検疫約2週後に死亡した3頭のサルには壊死性肺炎(Bordetella sp.分離)がみられた。
  また、成獣メス1頭の大脳に非化膿性脳炎がみられ、Encephalitozoon cuniculi の胞子と偽嚢子がみられた(ELISAによる抗体価陰性)。
 
【まとめ】
  多種類の蠕虫寄生が高率に認められた。うち数種は固有宿主に対する病原性は低いとされているが、ヒトを含めて他の動物への感染性を持つものが含まれていた。法改正によって現地および国内での検疫が義務づけられたが、1978年の類似の調査結果よりも多様かつ高率に寄生虫が感染していた。また、サルにはヒトへ感染するクルーズトリパノソーマが感染することも知られており、より詳細に検索する必要があった。いずれにしてもサル類(実験動物、展示動物、愛玩動物)の飼育については公衆衛生上および動物衛生上、これらを考慮し計画的な駆虫の実施と適切な飼育が求められる。
 
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