第4回 人と動物の共通感染症研究会学術集会 研究会目次


1 犬の生態調査と狂犬病予防対策 −ザンビア共和国 伝統農村での経験から−
 
藤倉孝夫 (元)ザンビア大学獣医学部疾病予防講座獣医公衆衛生学部門
 
【目的】
  ザンビア共和国の伝統農村における狂犬病の実態を把握し、今後の持続可能な予防対策を樹立するため犬の生態を中心に調査を行った。
 
【対象と方法】
  調査は聴き取り調査により全国9州21ヵ所の伝統農村を抽出して行った。調査項目は48項目に及び現地の状況を考慮して設定した。調査地域は異なる14地方語圏を包括した。
 
【結果】
  調査対象は729世帯、世帯構成員数は5,702人(1世帯平均7.8人)、犬保有世帯数484(66.4%)、調査犬頭数1,092頭、犬:人の比率 1:5.22、犬保有1世帯あたりの犬頭数2.3頭、母犬の平均産次数1.9、1腹の平均子犬数4.7頭、犬集団内の子犬の割合(1歳未満)25.2%、雌犬:雄犬の比率 1:1.09、犬集団の中間年齢(medium age)2.6年(2年7ヶ月)、調査対象となった犬の狂犬病ワクチン接種率14.7%などであった。犬は住居や村落の警護、狩猟に用いられ、村落へ侵入しようとするジャッカル、ハイエナ、毒蛇などの野生動物と果敢に闘うなど村民の生活と密接な関係が認められた。これらのイヌは殆ど繋留されておらず、このため夜間に村落を訪問することは危険が多い。1年間に犬により噛み傷を受けた村民は5,702人中114件(2.0%)で1人で2〜6回も噛まれた事例も明らかにされた。調査地周辺の診療所や病院での聴き取り調査では過去6ヶ月以内に狂犬病の犬による噛み傷の治療を受け事後免疫療法を施された78名の患者のうち30名(38.5%)が死亡していた。このような環境下で犬は野生動物に噛まれる、犬同士の喧嘩、狂犬病、中毒、事故などの理由により5年以上生残するものは少数にすぎない。
 
【考察】
  狂犬病対策の強化には犬集団の生態を熟知し、的確なワクチン接種計画を遂行すると共に、狂犬病を疑う犬による噛み傷の的確な診断とそれによる事後免疫療法について、救命率の向上を目途にさらなる保健医療体制の強化と研究が急務である。
 
【結論】
  ザンビア共和国で全国21伝統農村での犬の生態調査を行った。1世帯当たり平均1.5頭の犬が飼養され、これらの犬の平均中間年齢は2.6年であり、野生動物に噛み殺されたり、狂犬病で死ぬなど犬集団は短命で8才を超えるものは認められなかった。犬はほとんど繋留されておらず、多くの村民が犬に噛まれていた。診療所や病院では犬による噛み傷の治療が行われており、調査地周辺だけでも6ヶ月以内に30名の患者が狂犬病で死亡していた。本調査成績に準拠した狂犬病対策の強化が急務である。
 
本調査研究はザンビア大学獣医学部、農業省獣医学研究所、地方獣医官事務所等の参加、協力、共同により遂行された。
 
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