第10回 人と動物の共通感染症研究会学術集会 研究会目次

教育・特別講演5 感染症発生動向調査にみるズーノーシスの現状
 
多田有希、佐藤 弘、高山直秀、岡部信彦
国立感染症研究所・感染症情報センター
 
  「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(以下、感染症法)に基づき、医師及び獣医師に全数届出が義務づけられているズーノーシスについて、わが国における発生状況を報告する。
 
【方法】
  1999 年4 月施行された感染症法に基づいて行われている感染症発生動向調査で収集されているデータから、2000〜2009 年のズーノーシスのヒト及び動物の報告状況を示す。特にこのうち、E 型肝炎、オウム病、エキノコックス症、日本紅斑熱、日本脳炎、ライム病、レプトスピラ症の7疾患のヒト症例について、2006 年4 月〜2007 年12 月及び2008 年1〜12 月の診断例を対象に、性、年齢、症状、診断方法、感染経路、感染地域及び死亡報告の有無について集計・分析する。
 
【結果】
  2000〜2009 年の10 年間に報告されたズーノーシスは、ヒトでは、2類感染症の結核(2008年報告数28,459)、3類感染症の細菌性赤痢(320)、腸管出血性大腸菌感染症(4,321)、4類感染症のE 型肝炎(44)、ウエストナイル熱(0:2005 年に1)、エキノコックス症(23)、オウム病(9)、Q 熱(3)、狂犬病(0:2006 年に2)、デング熱(104)、日本紅斑熱(135)、日本脳炎(3)、ブルセラ症(4)、野兎病(5:2008年のみ)、ライム病(5)、レプトスピラ症(43)、5類感染症のアメーバ赤痢(871)、ジアルジア症(73)、インフルエンザ(621,447:全国約5000 の医療機関からの報告数)であった。7疾患の集計・分析においては、E 型肝炎、レプトスピラ症では男性が圧倒的に多かった。エキノコックス症の国内感染例は北海道に限られており、E 型肝炎、ライム病の発生も北海道での感染が多く、レプトスピラ症は沖縄県での感染が多かった。オウム病、日本紅斑熱、レプトスピラ症で死亡の報告があった(感染症法上の届出は原則初回のみであり、届出後の死亡等の追加報告の義務はないため、実際はより多い可能性がある)。また、オウム病、日本紅斑熱ではDIC を、レプトスピラ症では意識障害を来たした症例があり、重症化の可能性を念頭に置く必要が示唆された。性差や年齢分布において、2006年4 月〜2007 年及び2008 年の集計結果が必ずしも同様の傾向とは言えない場合もあり、継続的な集計・分析の必要性が示唆された。
  動物では、細菌性赤痢のサル、鳥インフルエンザ(H5N1)の鳥類、エキノコックス症のイヌの報告があった。
 
【考察】
  近年、世界各地で発生している新興・再興感染症の多くが各種動物を病原巣・ヒトへの感染源としていることから、ズーノーシスの重要性が認識されている。感染症発生動向調査により収集されているズーノーシスの報告データから異常な発生状況が探知されることや、新たな知見が得られる可能性もあり、その集計・分析、また還元・公表の継続は重要と考えられる。また、診断に必要な検査の中には、臨床現場では日常用いられない特殊な検査もあり、地方衛生研究所・国立感染症研究所などの位置づけも考慮してその実施体制を整備する取り組みも必要と考えられる。
 
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