第10回 人と動物の共通感染症研究会学術集会 研究会目次

教育・特別講演2 ズーノーシス統御へのアプローチ
 
吉川泰弘
北里大学・獣医学部
 
  約10 年前に、感染症法によりヒトと動物の共通感染症(厚生労働省は動物由来感染症と命名した)が、疾病分類に組み込まれ、その一部が届出感染症として登録された。それまで人の伝染病は100 年間、ヒトからヒトに感染する疾病として定義されていたし、獣医の届出感染症は家畜の感染症に限られていた。
  しかし、ウイルヒョウがズーノーシス(zoonisis)という言葉を作った時から、ヒトと動物の共通感染症の統御にはヒトの医学と獣医学の協力が必要であることが提言されていたし、100 年以上を経てone medicine のように、感染症の統御には人の医学と獣医学は一つであるという考え方が強くなってきた。2004 年のマンハッタン原則には動物と人の健康は共通しており(one health)、環境保全、生物多様性を含め人と動物、環境は深くつながっている(one world)という概念が述べられている。
  地球の生命の歴史を振り返れば、37 億年前に原始生命が誕生した時から、より単純な単細胞生物の細菌や原虫類、そして多細胞生物の線虫や条虫などが誕生した。節足動物を頂点とする進化の世界と、鳥類を頂点とする爬虫類群、我々の属する哺乳類のように分化してきた。感染症は振り返れば、こうした生物多様性の反映であり、宿主(より高等な生物)と寄生体(より原始的な生物)の相互作用である。
  人や家畜の感染症のアウトブレイクのたびにパニックを起こしていても、問題の解決にはならない。より、上流の自然界での病原体の振る舞いや、自然宿主、病原体の増幅宿主、媒介宿主及び終宿主の関連を明らかにし、どのように対応するのが最も有効か、費用対便益を検討する必要がある。
 私自身、人と動物の共通感染症の研究は、その意味で極めて複合的で、広い視野の必要なテーマであり、分野や境界を越えた学問の融合が必要な分野であることを少しずつ理解するようになってきた。10 年の研究会を振り返り、今後の展望を述べてみたい。
 
←前のページ次のページ→

研究会目次
カウンター