第9回 人と動物の共通感染症研究会学術集会 研究会目次

6 感染性結核患者が飼育している犬の結核診断の重要性について
 
○兼島 孝1、2)、辻本早織3)、 小宮智義4)、池田忠生5)
1) みずほ台動物病院、2) 琉球動物医療センター、3) あすなろ動物病院、4) 北里研究所 生物製剤研究所、5) NPO法人 日本パスツール協会
 
【はじめに】
  国内において結核は未だ制圧できていない感染症であり、WHOの基準で日本は“中蔓延国”とされ、3万人弱が毎年罹患している。また、犬の結核症の多くが、ヒトの結核患者に由来するものと報告があり、昨今のペットブームを鑑みると、結核罹患者もペットを飼育していることが考えられる。今回、感染性結核患者の家庭で飼育されている犬の結核診断を経験したので、その経緯を報告する。
 
【症例】
 イタリアン・グレー・ハウンド 雄 8歳 8.9kgBW
 
【主訴】
  結核診断
 
【経過】
  2004年暮れより、重度の発咳に苦しむ56歳男性が、2005年7月に感染性結核と診断され、同年12月まで、入院加療した。同居している次男(22歳)は同年8月にツベルクリン強陽性を示したため、内服を処方され経過観察となった。経過観察中の妻(55歳)は翌2006年7月に胸部レントゲン検査にて、異常所見を認め、同じ内服薬を処方された。また、過去に同居していた長男(25歳)や長女(30歳)からは、感染を疑う証拠は得られなかった。飼育犬は父に溺愛され、寝室も共にしていたため、犬の健康状態が気になったが、感染の発覚で安楽死の可能性という不安から、検査に前向きでなかった。しかし、長女から飼育犬の健康状態が担保出来ないと、孫を連れての帰省に不安があるということを受け、2006年8月に検査に踏み切った。
 
【検査】
  初診時に症状の有無、白血球数、CRP、胸部レントゲン検査、ツベルクリン検査を行い、正常値を確認した。後日、鎮静下にて、気管支洗浄液を採取して、培養検査と遺伝子検査を実施し、陰性を確認した。その後3年間、症状の有無、白血球数、CRP、胸部レントゲンなどの経過観察を行った。
 
【まとめ】
  3年間の経過観察でも、当該犬に結核症を疑わせるような症状はなかった。ヒトの感染性結核において、法的根拠のない飼育動物の検査を望む飼い主は多くはない。毎年3万人弱の新規感染者が報告される国内において、動物の健康をも守るために、その診断方法について更に検討を加えたい。
 
←前のページ次のページ→

研究会目次
カウンター