第8回 人と動物の共通感染症研究会学術集会 研究会目次

2 犬エキノコックス症の糞便内抗原簡易検出キット「エキット」の評価と感染源対策への応用
 
○神谷 正男1)、野中 成晃2)、林 臣菜3)、持田 立子3)、高倉 彰4)、S. ガンゾリグ、J. ラガパ、小林 文夫5)、奥 祐三郎6)
1)酪農学園大学環境システム学部環境動物学研究室 OIEエキノコックス症リファレンスラボ
2)宮崎大学農学部獣医学科寄生虫学講座、3)わかもと製薬株式会社
4)(財)実験動物中央研究所、5)(合)環境動物フォーラム、6)北海道大学獣医学研究科寄生虫学教室
 
【目的】
  エキノコックス症は主にキツネと野鼠等の野生動物間で伝播し、ヒトで重篤な疾病を引き起こすのみならず流行地の農業・観光業への影響(風評被害などを含む)を及ぼす動物由来寄生虫症である。犬もヒトの感染源となる可能性があり、飼犬の診断は地域住民への予防および流行地拡大防止のためにも重要である。これまで我々は厚生労働科学研究費補助金での「動物由来寄生虫症の流行地拡大防止対策に関する研究」の一環として流行状況調査を行なってきた。現在まで、犬の検査法としては虫卵検査と糞便内抗原(サンドイッチELISA)検査が併用され、獣医師の検査依頼により環境動物フォーラムで実施されてきたが、より迅速で簡便な診断法も要望されている。2008年5月、犬用に臨床現場で使用できるイムノクロマト法「エキット」(製造販売元:わかもと製薬株式会社)が開発・発売された。このキットについての性能評価について報告し、エキノコックス対策について考察する。
 
【材料と方法】
  糞便内抗原検査法とイムノクロマト法を用いて、エキノコックス成虫が排泄・分泌する代謝産物(成虫ES)抗原を用いた感度検査、ビーグル犬を用いた感染実験(原頭節100万個投与、1000個投与)の経日的変化、臨床的検討として飼犬糞便397検体(札幌市内169、関東地方228)について比較検討した。
 
【結果と考察】
  糞便内抗原検査法とイムノクロマト法での測定結果を比較したところ、成虫ES抗原での最小測定感度は0.5ng/mlであった。また、感染犬糞便の経時変化では、100万個投与群では感染後3日目より、1000個投与群では感染後11日より陽性と判定された。臨床検体でのELISA法を基準とした特異度は97.7%であり、臨床検体はすべて陰性であったため、感染実験検体(3頭、82検体)も含めた総合評価としての感度は100%、ELISA法との一致率は98.1%であった。
  これらのことより、現在、環境動物フォーラムを介して広く使用されているELISA法と新しいイムノクロマト法は、感度・特異度共にほぼ同等の性能であることが確認され、イムノクロマト法のスクリーニング用検査キットとしての有用性が示された。なお、イムノクロマト法で陽性と判定された検体については、感染症法に基づく届け出と関連し、確認検査が必要となるが、この確認検査については実験動物中央研究所によるサポート体制が出来ている。
 今後このような、獣医師が臨床現場で試験できるエキノコックス糞便内抗原検査が普及し、リスク(虫卵汚染)を回避するための診断ができる状況となる事が望ましい。なお、現在も環境動物フォーラムで実施されている感染源動物(イヌ、キツネ、ネコなど)に対する従来の検査法(ELISA+虫卵検査)と簡易法によるイヌの試験結果についても何らかの形で取りまとめ、エキノコックス感染源対策の一環として、疫学的情報を継続発信する事が必要不可欠である。
 
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