第7回 人と動物の共通感染症研究会学術集会 研究会目次


1 危機管理対策としての経口投与型狂犬病生ワクチンに関する調査
 
○小川孝,蒲生恒一郎,岩中麻里,笛吹達史,永田知史,衛藤真理子
農林水産省・動物医薬品検査所
 
  島国という地理的有利条件をもち、狂犬病清浄国である日本にとって、動物の狂犬病侵入防止対策には犬等の輸入検疫制度及び輸入動物届出制度等が効果的である。しかしながら、港湾地区における外国籍船からの不法上陸犬の問題等、狂犬病の侵入を完全に防ぐことは難しい。人及び犬等の狂犬病対策は厚労省、農水省及び地方公共団体が取り組んでいるが、狂犬病が国内に侵入し、野生動物に蔓延した場合の対策に関しては十分な検討が行われていない。最近の日本における海外からの新たな感染症の侵入及び発生を考えると、危機管理対策として予め野生動物に対する防疫対策を議論しておくことは重要である。今回、その対策の一つとして海外で使用されている経口投与型狂犬病生ワクチンの情報収集を行った。ワクチンの性状及び使用方法、海外での使用実績を調査し、万一の使用の際に検討しなければならない課題を整理したので報告する。
【1.経口投与型狂犬病生ワクチンについて】
  野生動物に免疫を賦与する手段として経口投与型生ワクチンが有用である。現在、ヨーロッパでは主に弱毒生ワクチン、北アメリカでは組換え生ワクチンが開発・実用化されている。これらのワクチン株の性状、餌、バイオマーカー及び散布方法について紹介する。
 
【2.経口投与型狂犬病生ワクチンの海外使用実績】
  ヨーロッパではキツネを、アメリカではアライグマ、コヨーテ及びキツネを対象としたワクチネーションキャンペーンが行われている。狂犬病撲滅に成功した例を中心にその詳細を紹介する。
 
【3.経口投与型狂犬病生ワクチンの使用に際しての検討事項(提案)】
  第一に、野生動物の狂犬病対策専門家チームを結成し、狂犬病流行状況を勘案した上でワクチン使用の可否を検討しなければならない。使用が決定された場合、ワクチネーションキャンペー
ンのための長期的な財政措置が必要である。また、キャンペーン開始前には対象動物の生態調査を行い、小規模野外試験の実施によりワクチン株及び餌の選択並びに効果的散布密度等を検討し、キャンペーン実施中の狂犬病疫学調査、ワクチン摂食率及び血清学的調査等のサーベイランス体制を整えなければならない。
 
【4.おわりに】
  万一、狂犬病が野生動物に侵入した場合、その清浄化には長い年月と莫大な費用が必要である。清浄国である日本にとって、侵入防止及び侵入した場合の蔓延防止対策を遵守徹底し、野生動物への狂犬病侵入を未然に防ぐことが最も効果的かつ経済的な野生動物対策である。
 
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