第6回 人と動物の共通感染症研究会学術集会 研究会目次


10 人獣共通感染症としての結核に対する予防の緊要性と課題 −ザンビア共和国での経験から−
 
○藤倉孝夫 1),Sitima, A.C.M. 2)
1)(元)ザンビア大学獣医学部
2)ザンビア共和国Namwala獣医官事務所
 
  結核は今日においても我々全人類にとり最も重要な感染症のひとつである。結核はMycobacterium tuberculosisによる人に限局された感染症と考えられがちであるが、実際にはM. bovisを含むM. tuberculosis complexによる人と動物の共通感染症である。しかし、生乳中への汚染の防除を目途として開発された殺菌法や牛の結核の防除、予防のためのツベルクリン反応陽性牛の摘発と淘汰、これらの対策の徹底を目的とする法規の整備など、家畜衛生のみならず人の公衆衛生にも貢献する事業が多くの国々により長年にわたり実施され成果をあげてきた。本報告ではアフリカ南部ザンビア共和国南部州Namwala地区の伝統農村における人と動物の結核について調査研究を行ったので報告する。
 
【成績】
1) 牛507頭についてツベルクリン反応による検査を行ったところ65頭(12.8%)が陽性であった。
2) 陽性牛3頭の肺、リンパ節からM. bovisが分離された。
3) 伝統農村167世帯のうち牛を保有する世帯では調査時点までの1年間に結核に罹患した世帯は、牛を保有しない世帯に比べて有意に多かった(odds ratio=7.6,p=0.004)。
4) この地域では生乳は大型の瓢箪(calabash)の中に入れて48〜72時間蓄え自然醗酵させてsour milkとし飲用するのが習慣であり、生乳中の有害な細菌(結核菌を含む)はこの醗酵過程で不活化ないしは排除されるといわれている。しかしながら、演者らの試験成績では96時間の醗酵過程を経てもM. bovisが残存していたことから生乳の醗酵のみによっては該菌は完全には不活化されることはないものと思われる。
5) 伝統農村に飼養されている牛は集落の外周の広大な原野に放牧されるがこれらの原野では種々の野生動物と水場や原野を共有する場合が多く相互に接触する機会もまた多いことが観察されてきた。とくにKafue川流域に多数生息するrechwe(Kobus leche)はかなり高率に結核病巣(約40%)を肺に保有していることが報告されており牛との接触により相互に結核感染の潜在的な原因となっていることが指摘される。
 
【考察】
  本調査に関連して動物から人へ、また人から動物へのM. bovisの伝播経路を明らかにすることは今後の課題である。また、接種と判定の訪問ごとに検査牛全頭を捕獲して行うツベルクリン反応はアフリカの伝統農村の環境条件下で反復実施することは容易ではない。これに代わりγインターフェロン・EIA法の試験的導入などにより牛や野生動物集団と人集団内のM. bovisをふくむM. tuberculosis complex感染の実態を解明する方法を開発し、動物由来の結核感染を制御する方策を樹立することが緊要な課題であろう。
  
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