第3回 人と動物の共通感染症研究会学術集会 研究会目次


1 神経症状を示したフェレットに咬まれて狂犬病曝露後発病予防を行った1例
 
 高山直秀 東京都立駒込病院小児科
 
【緒言】
  日本では昭和 32年以降動物の狂犬病もヒトの狂犬病も,昭和 45年の輸入狂犬病症例を除いて,発生報告がない。したがって,日本で生まれ育った動物に咬まれても狂犬病ウイルス感染の危険はないと考えてよい。しかし,たとえ日本国内であっても輸入動物に咬まれた場合には狂犬病を簡単に否定することはできない。演者は神経症状を示したフェレットによる咬傷例を経験したので報告する。
 
【症例】
  31歳女性。某年某月 5日に米国から輸入されたフェレットを2匹(茶色と黒色)ペットショップから購入した。同月 11日から茶色のフェレットが凶暴になった。13日午後ケージの清掃中に茶色のフェレットに右手を咬まれて出血した。13日夜から凶暴になった黒色のフェレットも加害フェレットも 14日夜に死亡した。ジステンパーまたは狂犬病が疑われると獣医師に言われ,狂犬病曝露後発病予防を希望して 16日に当院を受診して狂犬病ワクチンおよび破傷風トキソイドの接種を受けた。フェレットの死因検査を東京都衛生研究所(現東京都健康安全研究センター)に依頼した。衛生研究所は飼い主を咬んだ茶色のフェレットに関して狂犬病の検査はできるが,飼い主を咬んでいないフェレットの検査もジステンパーの検査も行政検体としては実施できないとの見解であった。このため衛生研究所に京都微研にジステンパーのPCR検査を 22日に依頼した。一方,被害者には 19日と 23日に狂犬病ワクチン接種を行った。19日のワクチン接種後に衛生研究所から加害フェレットの脳組織の蛍光抗体検査で狂犬病ウイルス抗原が陰性という結果が被害者に伝えられたため,狂犬病ワクチン接種は 23日で中止した。25日に京都微研から2匹のフェレットから採取した検体でジステンパーウイルス遺伝子が陽性との結果が届き,死亡したフェレットは2匹とも死亡 11日後にジステンパーとの診断が決定した。
 
【考察】
  本症例は日本における動物の死亡原因に関する検査体制の不備を明らかにした。すなわち,狂犬病の疑いがあると獣医師が判断したフェレット2匹のうち,飼い主を咬んでいないフェレットの狂犬病検査は行政機関が実施を拒否した。こうした体制では,狂犬病動物が日本に侵入して不審な死に方をしてもヒトを咬まない限り発見できない。日本に常在しない人獣共通感染症の侵入を防止するために,少なくとも海外からの輸入動物が不審な死に方をした場合には,ヒトに危害を与えたか否かにかかわらず,死因を究明できる検査体制を早期に確立するべきである。
 
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