第3回 人と動物の共通感染症研究会学術集会 研究会目次


6 視力低下により発見された猫ひっかき病の小児
 
 川村真智子,○高山直秀,山本成径,菅田安男(東京都立駒込病院小児科,眼科)
丸山総一(日本大学生物資源科学部)
 
【緒言】
  我々は不明熱と食欲減退を主訴に当院を受診して検査治療目的で入院したが,診断決定できずに退院し,その後視力低下の原因検査のため受けた眼底検査により,猫ひっかき病と診断された例を経験したので報告する。
 
【症例】
  症例は 8歳女児。両親および 11歳の姉と4人暮らし。ネコを 1匹飼っているが,受傷歴なし。某月 23-24日に 37-38℃の発熱があったが,自然に治まった。翌月 9日に再び 38℃の発熱と腹痛あり。その後 38-39℃の発熱が続き,食欲が低下した。 13日は体温が 37℃台になったが,食欲がないため,当院に経過観察目的で入院した。この頃飼いネコも体調を崩し,獣医師の診察を受けた。入院時にはリンパ節腫脹も肝脾腫もなく,腹部の圧痛以外に異常を認めなかったが,白血球数は 10,300/mcL,CRP が 19.7であった。
  入院後補液とセフェム系薬を投与して経過をみた。13-14日の夜間に 39.0-39.6℃の発熱がみられ,一時解熱したが,15日夜に 39℃の発熱があったため,Erythromycin を経口投与した。その後も 37-38℃台の発熱が続いたが, 17日より食欲が改善したため補液を中止した。血液,便,尿のいずれからも細菌は分離されず,全身状態も徐々に改善したため,20日に退院した。この頃に地面がくぼんでみえると母親に訴えた。
  退院後の学校検診で右眼の視力が 0.1といわれて受診した眼科医院で右視神経乳頭浮腫を指摘され,退院翌月 21日に当院眼科に紹介された。当院眼科初診時に視力は右 0.3,左 1.2で,右眼底検査では視神経乳頭浮腫および周囲の出血,黄斑部には星芒状白斑を,周囲に灰白色の綿花様斑点をみとめた。眼底所見より猫ひっかき病による視神経網膜炎と診断された。その後視力は徐々に回復し,眼底所見も軽快した。眼科初診 2日後と 9日後の Bartonella henselae 抗体価はともに 512 倍以上であった。
 
【考察】
  バルトネラ菌感染による視力障害は,視神経乳頭浮腫が発現してから2週間ほど遅れて黄斑部に病変が及んで始めて現れると考えられている。また,猫ひっかき病の潜伏期は 1-2週間なので,某月下旬に感染を受けたものと考えられる。初回の発熱がバルトネラ菌感染によるものかは不明であるが,翌月の発熱は,眼底所見および抗体検査結果からバルトネラ菌感染によるものと考えられる。本症は不明熱の原因として鑑別するべき疾患の一つと言える。なお,今回のバルトネラ菌感染と飼いネコの病気との関連は不明である。
 
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